眼鏡裏

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眼鏡裏

「よっ、トンボ野郎」 「お前さ、トンボ野郎のクセしてミサにコクったんだって?」 「トンボ野郎のくせに偉そうな事すんじゃねえよ」 僕は生まれつき顔も体つきもトンボみたいな見た目をしている。 もちろん空も飛べるが、このご時世では正直必要無い。 産まれてすぐの頃はこんな見た目では無かったのだが、どうやらそういう病気らしい。 先天性遺伝子融合症候群と言って、遺伝子が他の生物と融合してしまう珍しい病気なんだとか。 「や、トンボくん」 「あ…安藤さん…」 「ミサでいいよ」 ミサさんは眼鏡をクイッと直しながら言った。 「…ミサ…さん」 「ふふっ、ねえトンボくん。ちょっと勉強教えて欲しいんだけど」 ミサさんは、僕の見た目を気にしなかった。 「見て見てトンボくん!クレープだって」 「最近できたらしいね」 「トンボくんはどれにするの?」 「僕はタピオカドリンクにしようかな」 「クレープじゃないんかい!」 ミサさんといる時間は……楽しかった。 「私さ、結構好きなんだよね」 「えっ」 「あー、虫とかね。よくスケッチするんだ」 「へ、へぇ……今度僕にも見せてよ」 「いいよ、変わりに…」 「変わり…?」 「……トンボくんの事も見せてよ」 ミサさんの眼鏡の裏の目は、少し悲しそうに見えた。 僕はミサさんの事が好きだった。 「好きです、ミサさん」 「…ごめん、私…」 ミサさんは僕が告白した矢先、走って教室から出て行ってしまった。 まあ、僕はトンボな訳で、こうなる事はわかってる。 そう思っていた。 それから、ミサさんが学校に来る事は無かった。 「なあなあ、こいつらやっぱキモいよな」 「どうせトンボとカマキリだろ?腕の一本千切った所ですぐ生えてくるって」 僕はナイフを持った目の前の男二人を睨む。 「おー、怖い怖い。さて、どっちからいこうか…」 「僕からやれよ」 「お、いいねいいね。そういうの」 言いながら男は僕の腕にナイフを当てる。 「じゃあこうしよう。この女が言った方からやる。お前がなんと言おうとな」 言いながら男はミサさんの方を見る。 「と、トンボくん…」 「僕だ。僕からって言ってくれ」 「ダメだよそんなの!…言えない」 ミサさんは俯いてしまった。 「なんでだよ……どうして…」 「変わりに私が…」 「無理だよ…!」 僕はミサさんを見つめて言った。 「君には無理だ。わかるんだよ……」 「そんな事ない…!」 ミサさんもこちらを見る。 「早くしてくれよ、待ち切れねえよ」 男が言った。 「さあ、言うんだ。僕から…」 「私が受ける!!」 男が笑った。 「決まりね」 僕は久々に空を飛んだ。やっぱり僕はトンボ何だろう。歩くよりよっぽど楽だ。 勢いのまま男に体当たりすると、男は壁に激突し地面に伸びた。 「隠しててごめんなさい」 病気の事だろう。 ミサさんは自分の腕の鎌をきれいに拭きながら言った。 「謝ることじゃない」 「こんな私じゃ、嫌だよね」 「ミサさんはこんな僕を嫌がらなかっただろ?」 僕はミサさんの手を握った。 「そんなミサさんだから、好きなんだ」
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