勝手

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勝手

君のその深い瞳が怖かった。 常に真実を見抜いてるようで。 君の口から出る言葉が怖かった。 蓋をしても溢れ出て来るようで。 「なあ、明日パスタ食い行かね?最近店できたらしいんだ」 君はふと、そんな話をした。君とは今まで色んな所へ行ったし、色んな話をしたけど…。 「…ダメなの」 私はそれを断った。 「彼がそう言うから…」 私はそう言って君に背を向けた。 「ごめんね、ありがとう」 私は君に言った。 「…そっか、わかった」 君はただ淡々と、その言葉を受け取った。 好きな食べ物はムール貝の酒蒸し。 好きな果物はスターフルーツ。 好きな野菜はなす。 好きな事は歌を歌うこと。 そんな私の大好きな人。 「おいで」 私は彼に言われて隣に座った。 「…かわいいなぁ、俺の彼女は」 「ふふ、ありがと」 彼は私の肩に手を置いた。 こうして彼と一緒に要られるのは、諦めなかった私の努力の賜物です。 一度は彼に断られ、挫けそうにもなった。でも諦めずに自分を磨き続けた結果、ついに彼は私を認めてくれた。 彼の為だから。彼の為だったらって。 何でも捨てる覚悟があったし、何でもできる自信があった。 彼は私の作るホットサンドが好きだと言った。私はホットサンドを作った。ピクニックに行くって言って、彼が沢山食べられるように、沢山作った。 「重いわ」 最後に彼が言った言葉だった。 雨が降った。 髪も、唇も、鼻も、目も。 全身ずぶ濡れになりながら、何も考えられなくて、山頂の広場に突っ立っていた。 「何してんだよ、風邪引くって」 私の頭上に傘が刺された。 「あぁ……その…、手に持ったその籠はサンドイッチ?」 言いながら君は私が持っていたびしょ濡れの籠を引ったくった。 「腹減ってたんだ、一つもらうわ」 言いながら君はびしょ濡れの冷え切ったホットサンドを食べた。 「……びっちょびちょだとこんなにマズイのか。笑えるよなぁ」 そう言って、君はホットサンドをまるごと全部口に突っ込んだ。 「うんうん、くっそまずい」 「…何なのよ!」 私は声を荒げた。 「酷いこと言わないでよ!何で…なんで…私……」 「うるせえな…」 「うるさいのはあんたでしょ!勝手に来て勝手に私のことバカにして!」 「勝手なのはお前だろ」 「なっ…」 君はさらにもう一つ、ホットサンドを食べ始めた。 「大体な、こんなクソまずいサンドイッチ誰が食うんだよって」 「ホットサンドだから。そんな事言うくらいなら食べないでよ」 「いや、食う。お前さ、これ自分で食ったことあるか?」 「……」 「だよな。これお前の嫌いなアンチョビが入ってるし」 「だ、だったら何よ」 「言っとくけどアンチョビってしょっぱいんだぞ。食えたもんじゃねえ」 「で、でもあんたが前に美味しいって……」 「あの時は俺の為に作ってくれたんだろ?そりゃ美味いに決まってる」 またこういうクサい事を平気で言う。 「それにあの時は酒があったからな。お陰で途中から記憶が無い」 「…一言余分だし」 君は、3つめのホットサンドに手を出した。 しばらくの沈黙の後に、君は言う。 「お前は悪くないって」 そう言って彼は背負っていた防水のリュックからタオルを取り出し、私に差し出した。 私はそれを受け取り、顔を拭いた。 「泣くなよ、元気出せ」 「…ありがとう」 私が怖かったのは、君じゃないようで、君そのもの。 君が私に向ける狂おしい程の何かは、ただただ透明で純粋な愛でした。その狂おしさが怖かった。私が彼に注いだものとは違う、身勝手で軽やかな愛。 「さ、帰ってパスタ食いに行こうぜ」 それなら私も応えよう。私も君に、私の心にある水に浮きそうなほどの愛を注ごう。 「じゃあ私んちまで匍匐前進競争ね」 「なんだそれ、負けねえぞ」
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