ワンデイ・ワンダラー

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ワンデイ・ワンダラー

マジ最悪。 引っ越したばかりで色々疲れていたのか、見事に目的の駅を寝過ごした。 終点で車掌さんに起こされて、駅を降りれば知らない街。 これが終電なんだけど、タクシーを呼ぶにも財布の中身はあと173円しか無い。何に使ったのか、抜かれたのか…。 「で、ここどこ…?」 知らない街の喧騒は、より一層私を孤独にしていった。 夜通し流れ続ける電子掲示板のニュースに目を向けた。 『大手市街警備事務所の人気警備員、須藤朱莉(22)が今日、記者会見にて正式に事務所の引退を発表』 最近よく目にするニュース。なにやら事務所内の先輩と揉めたらしい。 あまり興味ない。 『アウラ・スッカにて、異常気象による新たな気象現象を確認』 これも聞いたことがある。本来なら寒冷な地域が著しく気温が上がることで土地が砂漠化してしまっているらしい。 しばらくニュースを眺めていたけど、なんか飽きてきた。さっさとうちに帰ろう。 しばらく歩くと、街の郊外にやってきた。 該当の明かりも少なくなってきて、いよいよ自分が今どこにいるのか分からなくなってきた…。 あいにくスマホの電池も無くなっちゃったし。 喉が乾いたので、なけなしの小銭を自販機に入れた。 「たまにはメロンソーダにしよっかな」 カタカナで『メロンソーダ』とだけかかれたペットボトルを開けて、中の緑色の液体を豪快に飲んだ。 「ぷは〜」 久々に歩いたからか、より一層飲み物が美味しく感じた。 海沿いの道に出た。月明かりが海に反射して、キラキラと淡く光っている。 少し浜に出てみることにした。 浜は、月明かりでライトがいらないほどに明るい。 海風が少し肌寒いなぁ。 「…あ、ウミガメ」 月明かりに照らされたウミガメが、浜の一角に佇んでいた。 「もしかして卵産んでるのかな」 恐る恐る近寄ってみた。どうやら私の推理は正しかったらしい。 「へぇ〜、すごい」 ウミガメは、目の下を濡らしながらピンポン玉の様な卵を砂に産み落としていく。 「頑張れ、頑張れ」 ウミガメのお母さんは、少し寂しそうな背中を見せながら浜辺を去って行った。 次第に夜が明けてきた。 しばらくバス停以外何もない海沿いの道を歩いていたら、ようやく港町のような所にたどり着いた。 ちょっと町をふらふら歩いていると、朝早くから開いている駄菓子屋さんを発見。 「残り33円…」 意を決して駄菓子屋さんに突入。 「いらっしゃい」 おばちゃんが笑顔で私を迎えてくれた。 「えーっと」 私はヨーグルを手に取って、おばちゃんに20円を渡した。 これが大好きなんだよね。 歩きながら、ヨーグルをすくって食べる。 久しぶりに食べたヨーグルは、前に食べたときよりも甘く感じた。 日が昇って、暖かくなってきた。 そして、ようやく見えてきた、見慣れた地名。 『ノーマズ 2km先』 足は既にガクガクだけど、せっかくここまで来たんだ。最後まで歩こう。 1歩ずつ進んでいけば、確実にそれは近くにやってくる。 あと少し、あと少し。 家に着くと、さっきまでの道のりがひどく懐かしいように感じられた。 窓の外を眺めていると、びゅうっと風が吹いて、一瞬窓がガタンと音を鳴らした。 「ああ〜、疲れた」 懐かしいなんて言ったけど、まあ無駄な道のりなんていでしょ。きっと。 また今度、次はもっとお金を沢山持って、時間に余裕を持って。 「次は電車で帰ろうっと」 また、メロンソーダとヨーグルを買おう。
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