#こ待ち

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#こ待ち

「はじめまして、君がアキちゃん?」 「はい、あなたが拓人さんですね」 よろしく、と二人で挨拶を交わす。 彼女はまだ18歳。 偶然見かけたSNSの書き込み。 『泊めてくれる人を探しています』 まあ、俺は普段独り暮らしだし、女の子の方から来てくれるのなら乗っからない手はないだろう。 『一泊だけなら大丈夫ですよ』 この次に、彼女から来た返信を見て、俺は少しだけ後悔した。 『よろしくお願いします!一泊だけ、ですか。いつまで持つのか楽しみです!』 「おじゃましまーす」 アキと名乗るその女は、そろそろと俺の部屋に上がってくる。 「ね、ねえアキちゃん」 「どうしましたか?」 意を決して聞いてみた。 「あれ、どういう意味…?」 彼女は一瞬固まった後にこう答えた。 「大丈夫ですよ、悪いようにはしません」 一体俺は何をされるのだろうか。先程から彼女の荷物がやけに多い事も気になっていた。 「お腹空きませんか?」 静寂を断ち切る一言に思わず過剰に反応してしまう。 「あ、ああ〜…何か食べる?」 俺は冷蔵庫の中身を思い出す。…味玉とビールしか入っていない。 「いえ、台所を貸していただけませんか?」 「え…?」 彼女は後ろの荷物を広げ始めた。なるほど、食材や調理器具、調味料などがぎっしりと詰まっている。 「こう見えて、料理の腕には自信があるんです」 作っているのは鍋だろうか。大きな土鍋と串を台所に並べていく。 「この串は何に使うの?」 「まあまあ、見ていて下さい」 言うと彼女はタッパーからご飯を取り出し、串に巻きつけるとあろうことかそのまま火で炙り始めた。これは確か、エイキッツァ地方名物の… 「『きりたんぽ』」 「へえ、食べた事ないや」 彼女は手際よく作業を勧めていく。 「ああ〜、いい香りがする〜」 「お米はエイキッツァ産の物を使用してます」 土鍋に鶏肉や野菜などの具材と、半分に切ったきりたんぽを入れる。 「さあ、できましたよ!」 お玉でいくつかきりたんぽを取り、取皿に盛った。 「それじゃ、いただきます」 ひとくち口に入れた瞬間、あまりの美味しさに絶句した。 炙られることにより香ばしさ、旨さ、甘さが格段にグレードアップしたご飯達と、ご飯のあらゆる隙間に隅々まで染み込んだ、野菜と鳥の旨味がぎっしりと詰まったスープ。素朴な味わいだが、触れただけで崩れてしまいそうな繊細な味わい。そこから紡ぎだされるハーモニーは、もはや昇天の域である。 「あぁ…あたたかい…」 この旨さの為に、一体いくつの犠牲があったのだろうか。そして、その犠牲を微塵も無駄にすることなく、この最高のハーモニーを奏でる為に尽力したアキちゃん。全てにありがとう。高ぶる感情を抑えきれず、涙を流した。 「美味しいですか?」 「…うん、おいしい、おいしいよ…!」 彼女はおなじ鍋をつつきながら語り始めた。 「どうやら気付いて貰えたみたいですね」 「うん…うん…」 この最高の鍋を前にして、気付かないはずがない。 「俺たち人間は…あらゆる犠牲の上に成り立っているんだな…」 「ええ、そして全ての犠牲は無駄にしてはならないのです」 「犠牲なしでは生きていけないからこそ、全ての犠牲に感謝と敬意を込めて、全ての犠牲を背負って生きていかなきゃな…」 俺は、再び鍋をかき込んだ。 「『ありがとう』は、少し大げさなくらいが丁度いいんですよ」 「ふぅー、ごちそうさまでした」 「おそまつさまでした」 俺は考えていた。このままでいいのだろうか。こんな感動、もう二度と味わえないかもしれない。 「じゃあ、片付けないと」 そういって彼女は持ってきたバッグに調理器具をしまい始めた。本当にいいのか?俺は…? 「…待ってくれ」 「どうしましたか?」 「か、片付けなくていい…」 俺は……俺は…。 「君の料理が食べたい」 アキちゃんは、こちらを見てニコッと笑った。 「持ちませんでしたね」 俺は、その顔を見てきっと、これまでにない安堵の顔を浮かべていたと思う。 「じゃあ、明日はお好み焼きにしようかな」 「そ、それはまさか…中華麺をサンドして蒸し焼きにするというあの…!」 「『ヒイロ・セム風お好み焼き』」
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