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「結構話題になったけど読んでないなぁ。有名な作家さんなの?」
「ううん、ちっとも」
紗希は首を左右に小さくった。
「これ以外、有名になった作品なんて一つもないのよ」
「……皮肉な作家さんだね」
「そうね。常に不器用な人って感じかな」
紗希は小さく笑った。
「知り合いみたいな言い方」
「だったらどうする?」
「紗希ちゃんはいくつなのか、真剣に聞くよ」
確かに、そこは気になるわよね、と言って紗希はおかしそうに笑った。
「それで、どんな話?」
「うーん……うだつの上がらない小説家が、女子大生と出会う話……かな」
「出会って……恋をする?」
「うーん、恋っていうか……なんだろね。小説家は一生懸命女子大生を真っ当な道に戻させようとするんだけど、女子大生は小説家にぞっこんみたいな。で、小説家もダメ人間だからね、ついつい流されちゃうの」
紗希の解説をいた裕生は眉をひそめ、首を傾げた。
「で、二人はどうなるの?」
「別れちゃうの」
「なんでまた。ぞっこんと流される性質なのに?」
「だからこそ……かな。小説家がね逃げ出しちゃうの」
「逃げるの?」
「そう。秋のある日、二人でピクニックに行ってね、その後急にいなくなっちゃうの」
「いきなりだね」
「そう、ほんとにいきなり。別れの挨拶も何もなくて、会いに行ったら、部屋はもぬけの殻。まあ、元々大して物のある部屋じゃないんだけどね」
「女子大生は?」
「呆然とするだけ。呆然として、しばらく泣いて、それから新しい人生を歩み始めるの」
「なんか……ドライだね」
そうよね、と紗希が呟いたところで二人の飲み物がやって来た。
紗希はココア。裕生はコーヒー。
一口啜り、その暖かさを体に染み込ませるがごとくしばし無言だった。
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