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 カーテンの隙間から差し込む日差しが柔らかな日だった。  摺りガラスのはまった窓を細く開けて置けば、心地よい春の風が部屋の中を浄化していくようにすら感じられる。柔らかなその風は、古びたカーテンをまるでフリルのように柔らかく揺らしていた。  外からはその風に乗って剣戟音のような甲高い音が聞こえていたが、触らぬ神に祟りなしとばかりに無視を決め込んでいる。  ここは薄汚い木造アパートの一室。  毛羽だった六枚の畳。その範囲だけがこの部屋の全てだった。風呂、トイレはおろか台所まで共用なので、部屋の中に余計なでっぱりは一切ない。清々しいほどに真四角。  その床に直接寝転がって天井をぼんやり眺めているのは、作務衣姿でタオルを頭に巻いた中年男性だった。今の彼は特に名前を持っていなかった。あまり必要が無かったからだ。  おっさんとか後、おっちゃんと呼ばれることもある。  彼の目の前では、脳内で生み出された妖精達が羽音も賑やかに飛び回って遊んでいた。その様子の可愛い事と言ったら無かったが、生憎と手の届く距離でもない。手が届いたところで何をするわけでは無いが、何となく手を伸ばしてみたくもなるのだった。  外から不意に駆け足の音が聞こえた。  それに驚いたように、妖精達はふっと姿を消した。 「今日も来たか……」  ため息とともに彼が呟くのと、窓の外で誰かが走る靴音が聞こえるのは同時で、それから程なくしてドアがノックされた。 「開いとるよー」  彼の口から出た流ちょうな関西弁と同時に、部屋のドアが勢いよく開いた。
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