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 その向こうから現れたのはうら若い娘だった。  丸顔でやや茶色がかった長い髪。  色白のおかげで、際立つ赤い頬。  春らしい色のカーディガンと七分丈のジーンズ。足元はぺたんこの柔らかい靴を履いている。  全体的にややほっそりとした体付きながら、胸の部分はそのボリュームが服をしっかり押し上げている。  やや息が上がっているようで、はあはあという呼吸音と共に、胸の豊かな膨らみも幸せそうに揺れた。彼女が入ってきた途端、部屋の中には彼女の香りが流れ込み立ち込めた。思わず深呼吸して、その香りを堪能する。 「今日もええ匂いやなー」  ぼそっと小さくつぶやいた声は、彼女の耳には届いていないようだった。  興奮気味の彼女は、一息ついてからまくしたてるように窓を指さして喋りだした。 「おっちゃんおっちゃん!!今ね、私ね、凄いもの見た」 「何見たん?」 「片目のライオンと虎が日本刀で切り合いしてた」 「肉食獣としてのポテンシャル全棄てやな」 「ライオンはこう、ゾロッとした着物着ててね、刀をさんぼ……」 「よし、ヤバい流れやからそこまでや」 「ね、凄い物でしょ?」  自慢気に胸を張る紗希。 「今度はもうちょっと説明できるもんを見とき」 「それ、選べるのかなぁ」  そう言って首を傾げる彼女の名前は紗希と言った。  ある日、ここに迷い込んできた紗希に、彼が声をかけてしまったのがきっかけだった。それ以来、紗希はどういう分けか彼を気に入り、しょっちゅう来るようになったのだ。 「紗希ちゃん、また来たんか」 「来たよ。ダメ?」  しれッと言う彼女に対し、思わず彼はため息を一つ吐いた。 「……ええよ、入っといで」 「お邪魔しまーす」  靴を脱いで土間に上がると、すっかりへしゃげた座布団を部屋の隅から取ってその上にちょこんと腰を下ろす。 「こんなおっさんのとこに、しょっちゅう遊びに来てもしゃあないやろ」  そう言って起き上がった彼は、頭のタオルを外して顔をごしごしと拭いた。  やや白いものが混じり始めた髪。ちょっとたるんだあごには無精髭。作務衣越しにも分かる出っ張った腹で、裸足の足は爪までごつごつとしていた。 「良いの。私の居場所は私が決めるんだから」 「言葉としては素敵やけどな。ここ、おっちゃんの家やで?」 「そうだよ?」 「ここに紗希ちゃんがおってええかどうかを決めるのは、おっちゃんとちゃうの?」 「え、嫌なの?」 「全然。紗希ちゃんみたいな可愛い子がおってくれるのは、めっちゃ嬉しいよ」 「じゃあいいじゃん」  そう言ってニコッと笑った紗希は、手に持っていたビニル袋からペットボトルのお茶を引っ張り出して何口か飲んだ。白い喉がこくりこくりと動く。
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