生き残った男

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 奈々の話を聞きながら、コウイチは尚も呆然としたままだった。粉微塵に、破壊された。俺の住んでた、地球が。木っ端微塵になっただって……?  奈々は次に、先程の窓とは反対側の壁に近づき、ボタンのような凹みを押した。今度は先程より少し小さな「窓」で、その向こうには同じく無数の星がまたたく宇宙空間が見えたが。それは、窓の「すぐ向こう」にあるのではなく、何か遠くのどこかをモニターしているように思えた。 「私達は救助艇で、この7号機のように、先に出発していた移動惑星になんとか移住できたけど。地球は、そこに住んでいた生命は、『失われてしまった』。それは、避けられなかったことかもしれない。でも、この過ちを二度と繰り返さないように。自分たちへの戒めの意味で、地球の『文明』のカケラを、少しでも保存しておこうと。破壊された地球へ、探索隊が派遣された。そして、コウイチさん。あなたを『見つけた』の……! 「それは、奇跡に近い確率だったと思うけど。ちょうど移動惑星が衝突した時に、コウイチさんが衝突点の『真逆』の位置にいた。それ以外に、考えられなかった。理由はともかく、地球で『唯一の生存者』であるコウイチさんを、私達は連れ帰り。なんとかその体を補修したの。最初はほんとに、宇宙空間に意識だけがぽかんと浮いているに近い状態だったけど。ゆっくりと時間をかけて、その細胞を再生していった。 「その過程で、申し訳ないけど、コウイチさんの意識も取り出させてもらった。目覚めた時、コウイチさんが驚かないように。コウイチさんの記憶から、あの病室のイメージと、この看護婦の服装と。そして、この『顔』も、ね……」  奈々はそう言いながら、自分の顔のアゴのあたりの皮膚を、「ぺりっ」とめくってみせた。そこには、地球の人間に似てはいるが、明らかに「異質」と思われる皮膚が存在していた。  なるほどね、俺の頭の中から取り出した「顔」か……。コウイチは最初に奈々の顔を見た時、何か安らいだような、癒やされる気持ちになったことを思い出した。そして、改めて自分の手をじっくりと確認してみた。ぱっと見は確かに「自分の腕」だが、よく見ると、何か人工的な感触があった。  それにしても……。コウイチは奈々の話を聞き終え、紫色の床に「ぺたり」と座り込んでしまった。俺が地球でただ1人、「生き残った男」とは、ね。闇の臓器移植のドナーにされたという方が、まだはるかにリアルだった。破壊された地球の「あった場所」をモニターしていると思われる窓の向こうには、きらめく星々に混じって、何か数多くの「残骸」のようなものが漂い舞っていた。  奈々は、座り込むコウイチに、寄り添うように近づくと。少しためらったような顔をしてから、話を続けた。
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