生き残った男

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「はい、コウイチさんのご両親には、目を覚ましたことはご連絡してあるのですが。まだ、お見舞いには誰も……。面会謝絶の時間が長かったので、まだ早いと思ってらっしゃるのかも。じきに、お見えになるんじゃないかと思います」  きっと、俺のことを思ってそんな風に言ってくれてるのだろう。微笑む奈々を見て、コウイチは胸が熱くなるような思いだった。地元で就職して欲しいという両親の願いを振り切って、半ば強引に進学を決め、一人暮らしを始めた。勘当されているわけではないが、今は生活費の仕送りもない状態だ。見舞いに来なくても、おかしくないのかもしれない。  そんな事情はわからずとも、奈々さんも「きっと、何かあるんだろう」と察して、俺を慰めてくれてるんだな。コウイチはそう考え、奈々に対する想いが、「好意」と呼べるほどまでに高まっていくのを感じていた。  それから数日。相変わらず病室でベッドの上から動けないままのコウイチは、奈々との会話だけが日々の楽しみだった。しかし、こんな状態で1人きりでいる時間が長いと、どうしてもネガティブなことを考えてしまいがちだ。コウイチの頭には、新たな「疑問」が浮かび上がっていた。  そういえば奈々さん、俺が聞いた時に、暗い顔してたよな。それを誤魔化すように、微笑んでたけど。あれからずっと、未だに誰も来ない。それに、病室に来るのも奈々さんだけで、医者の診察もない。これはやっぱり、何かおかしいんじゃないか?  
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