生き残った男

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 コウイチは震える手で、握った注射器の先を、奈々の白い首筋に近づけた。注射器の針が、柔らかな肌に「チクッ」とめり込んだ。  俺の真剣な表情を見て、怯えたような奈々の顔が、少しずつ諦めに変わり。そして、「はあ……」と、大きなため息を突いた。 「いつまでも、隠しておけるものじゃないわね……」  奈々は言われた通りに、コウイチの足元のベルトも外すと。「ずっと寝ていたから、慎重にね」と声をかけ、コウイチの体をベッドから起こした。コウイチはすかさず、ばっ! とベッドから飛び降りようとしたが、足がいうことを聞いてくれなかった。そのまま、ばたん! と床に倒れ込んだコウイチに、「無理、しないで」と、奈々は優しく肩を貸し、抱き起こしてくれた。  奈々の肩を借りながら、コウイチはおぼつかない足取りで、少しずつ病室のドアに近づいた。奈々に抵抗するような気配はなかったが、念の為、注射器を首元にかざしておくのは忘れずに。ドアを開けようとして、コウイチはもう一度外の気配を伺った。 「このまま出ても、大丈夫よ?」  奈々はそう言ったが、やはりそのまま信用することは出来ない。コウイチは、奈々に先に廊下に出るように指示をして、ゆっくりと慎重に、ドアを開いた。
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