生き残った男

9/11
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 ドアを開けて、病室の外を見たとたん。コウイチは、あっけに取られたような声を出していた。 「うわあ……」  ドアの外の廊下は、壁も天井も一様に、薄紫色をしており。そして、その壁や天井自体が、淡い光を放っていた。まるで、薄紫に輝く、淡い光の中に放り込まれたようだった。コウイチにはとても、それが現実のものとは思えなかった。唯一、今しがた出たきたばかりの「病室のドア」だけが、仲間はずれのように「現実感」を漂わせていた。 「こ……ここは、いったい……?」  呆けたような声で聞くコウイチを見ながら、奈々は壁にあった小さな凹みにそっと手を触れた。すると、薄紫の壁が左右に「ガラッ」と、窓のように大きく開き。その、「向こうにあるもの」を映し出した。窓の向こうには、永遠かと思われるような漆黒の空間と、そこに輝く幾つもの光。それは紛れもなく、「宇宙空間」だった。 「……」  コウイチは、もはや声も出ない状態だった。奈々に突き立てていた注射器を「ポトリ」と床に落とし、立ち尽くすコウイチに、奈々はそっと近づき。これまでに起きたことの、「真相」を語り始めた。 「ここはね。私達の母星を出発した、移動惑星7号の中。その昔、私達の星は、過剰な人口増加に悩み。その解決を、外宇宙に見出した。小さな国家がまるごと生活出来るような、巨大な『移動惑星』を作り。母星を離れて、移住先を見つけるための、果てしない旅に出ていく……。 「最初に出発した『1号機』が上手く軌道に乗ったので、続けて幾つもの移動惑星が作られた。私はその8番目、『8号』の住人だった。でも、計画がスムーズに進んだことで、気の緩みみたいなものがあったのかもしれない。8号機の中でも、惑星の操作や管理をするチームが、惑星の中で生まれた『新世代』に代わったばかりという不運もあったかも。私達の乗った8号機は計器の故障で、コントロールを無くし、暴走を始めたの……。 「そして、その暴走する先に。コウイチさん、あなたの住んでいた星、地球があることが判明したの。このまま行けば、衝突は避けられない。私達は何度も地球へ警告の信号を送ったけど、信じてもらえなかった。仕方なく私達は、何隻かの救助艇に分かれて乗り込み、暴走を続ける8号を後にした。8号はそのまま、地球と衝突。どちらの『惑星』も、粉微塵に破壊された……」  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!