THEバケモノ

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 仙人の言うことが本当ならとんでもないことになると俺は当然、危ぶんだが、騎虎の勢いでエレベーターで上がって行き、5階の職場にあるバケモノのデスクの前に立った。 「どうしたんです?もう仕事が始まりますのに」とバケモノが切り出した。  こいつは憚りながら誠実な俺を不実に蹴落として課長に昇進した矢先だから冷ややかに薄ら笑いを浮かべていやがる。  俺は胸糞が悪くなりバケモノが顔を向けたのを潮に右掌を迷うことなく、その顔に当てた。  すると、ずるっとバケモノの面の皮が剥けて表情筋やら血管やら赤くてぎとぎとした生々しい物が剥き出しになったものだから俺は思わず、「正真正銘のバケモノだ!」と絶叫してしまった。  で、周囲にいた同僚たちもバケモノに注目して、「うわあ!ほんとにバケモノだ!」だの「きゃー!グロい!」だの「ぎゃー!きもい!」だのと声を上げたのでバケモノは自分のことかと思って倉皇としてデスクの抽斗から手鏡を取り出して自分の顔を映すと、「ひえ~!確かにバケモノだ!」と叫ぶや気が動転したらしく意味不明な事を喚き散らした後、絶望したらしく腰窓の方へ駆けて行き、勢い窓を開けて下框を踏み越えて飛び降り自殺してしまった。  同僚たちがバケモノの変容について怪奇現象と捉え、どよめきながらバケモノが飛び降りた腰窓の袂で屯して下を覗き込む中、バケモノの火の玉つまり魂を掻っ攫って空を浮遊する者を俺は窓越しに確と目撃した。  そいつが親しげに俺に手を振るものだから俺は何者だと思ってよくよく見ると、あの仙人と名乗った爺さんだと分かったので、あれは仙人ではなく死神だったのだと悟った。
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