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すると、背後から、「お前さんは見込みがありそうだ」と何者かに声をかけられた。
顧みると、古代ローマ人が纏っていたトガのような一枚布を纏い、白い髪と口髭と顎髭を茫々に生やした老人が藜の杖を突いて立っていた。
だから、まるで仙人みたいだと俺は不可思議になり、その思いで心身ともに凝り固まってしまった。
「ふむ、ふむ。お前さんはいい人、明るい人に化けたバケモノの化けの皮を剥がしたいと願っておるな」
ESP能力を持っているのか!?まるっきり図星を差していたので俺はやっぱりこの爺さんは只物じゃない、マジで仙人かもと思って尊敬の念を込めて答えた。
「はい、そうです」
「うむ、うむ。ではな、手を出しなされ」
「えっ?」
「わしはな、いい人、明るい人に化けたバケモノの化けの皮を剥がしたいと願っておる者にしか効き目がない薬を掌に塗ってやろうと言っておるのじゃ」
「塗るとどうなるんですか?」
「塗るとな、お前さんがバケモノと思っておる者の顔に手を当てるだけでその者の面の皮を剥がしてしまうことが出来るのじゃよ」
「えー!ほんとですか!」
「ああ、わしは見ての通り仙人じゃ。じゃから信用するがよい」
「はあ・・・」と俺は言いつつ、矢張り仙人かと諒として信じる気になった。「しかし、面の皮を剥がすって何処まで正体を暴くことが出来るんですか?」
「そうではない。面の皮とは比喩ではなくて皮膚、皮膚そのものを剥がすのじゃ」
「えー!そ、そっちかい!」
「そっちかいってタメ口で言うでない」
「あっ、す、すいません、そちらの意味ですか!」
「そうじゃ、顔の皮膚を全部剥がしてしまうのじゃ」
「そ、それは凄いことですが、そこまですると、ほんとにバケモノになってしまいます」
「よいではないか、バケモノの名に相応しい者にはそれ相応の罰が当たって当然じゃ」
「はあ・・・」
「何を躊躇っておる。手を出しなされ」
「はあ・・・」
「まだ躊躇うのか、わしはお前さんを見込んで神の力を授けようとしておるのじゃ。それを断ると言うのか!」
仙人が並み並みならぬ気合を込めて言うので俺はとても断ることができなくなった。で、掌を表に向けて右手を差し出した。
「うむ、それでよい。では塗って進ぜよう」と仙人は言うと、懐から薬を取り出して俺の掌に満遍なく塗った。「これでよし。さあ、では早速、バケモノの名に相応しい者の所へ行って顔に手を当ててやりなされ」
「はあ、分かりました」
俺は気合いの籠った仙人の前で気後れして承知するしかなかった。
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