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カインの末裔(シナリオ)
最近全然あげてないので、またシナリオですが、シナリオの教室に課題として提出したものをあげておきます。課題は兄弟です。
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人 物
前島俊一(としかず)(28)学芸員
前島俊一(7)少年時代の俊一
前島俊二(しゅんじ)(25)教員
前島俊二(4)少年時代の俊二
須藤みや(27)俊一の恋人
前島直子(50)(29)俊一と俊二の母
橋本大樹(23)俊一の後輩
前島小夜(25)俊二の妻
男性アナウンサー(26)
大学教授(48)
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○前島家・リビング
前島俊一(7)、前島俊二(4)、テレビの前のテーブルの前に座っている。前島直子(29)、テーブルの上にケーキの皿を置く。一つはショートケーキ、もう一つはチョコレートケーキである。
固定電話が鳴る。
直子「仲良く食べててね」
直子、言いながら電話の方に行く。
俊一、チョコレートケーキの皿を自分の前に持ってくるが、ちらりと俊二を見て言う。
俊一「シュンちゃんどっち?」
俊二「それ!」
俊二、俊一の手にあるチョコレートケーキの皿を指差す。俊一、ため息をついて、その皿を俊二に渡す。
○前島家・リビング・テレビ画面内
クラッシック音楽が流れ、「アベルを殺すカイン」の絵が写っている。
アナウンサーの声「こちらの絵画は、旧約聖書に出てくるカインとアベルの物語を描いたものです。カインとアベルは最初の人間、アダムとイブの息子たちで、人類最初の殺人事件だとされています」
スタジオに画面が戻り、アナウンサー(26)と大学教授(48)が映る。
アナウンサー「先生、カインとアベルは兄弟ですが、どうして兄が弟を殺すというような事件が起きてしまったんでしょうか?」
教授「旧約聖書の創世記にはこうあります。『カインは地の産物を持ってきて、主に供え物とした。アベルもまた、その群れのういごと肥えたものとを持ってきた。主はアベルとその供え物を顧みられた。しかしカインとその供え物とを顧みられなかったので、カインは大いに憤って、顔を伏せた』」
画面が再び絵画に切り替わり、アベルを殺そうとしているカインの顔が大写しになる。
アナウンサーの声「つまり、嫉妬ということでしょうか?」
俊二の声「ちょうだい!」
○前島家・リビング
俊二、半分ほど食べ進んだ俊一のショートケーキの上のイチゴをつかんでいる。俊一、慌てて俊二の手を掴もうとするが、俊二はイチゴを食べてしまう。
俊一「コラ、俊二! 最後にとっておいたのに!」
俊二を殴る俊一。俊二、泣き出す。
直子、電話を置いて戻ってくる。
直子「どうしたの?」
俊二「お兄ちゃんがぶった!」
俊一「シュンちゃんがイチゴ食べたから!」
直子「俊一、イチゴくらいシュンちゃんにあげなさい。お兄ちゃんでしょう」
直子、泣き止まない俊二を抱き上げながら言う。
俊二「ママー!」
直子「シュンちゃん、大好きよ。泣かないで」
俊二、直子にしがみつく。直子、椅子に座って俊二をあやす。フォークを握りしめて、俊二を見ている俊一。
○喫茶店・外(夜)
T・21年後
○喫茶店・中(夜)
クラッシック音楽の流れる店内。須藤みや(27)コーヒーを飲んでいる。俊一(28)、駆け込んでみやの席にやってきて向かいに座る。
俊一「ごめん、遅れて。ちょっと長引いて」
みや「ホント学芸員ってバイトなのに人使い荒いよねー」
俊一「あ、そういえばニュース! 今度の四月から嘱託職員にしてもらえるらしい」
みや「じゃあ少しは安定するってこと?」
俊一、鞄から銀行の通帳を出し、最後のページを見せる。
俊一「じゃーん! 今貯金七十万だよ! 多分、今年は一年働いたら百二十万くらい貯金できそう。そうしたら、な?」
みや、手を口に当てて驚いたように俊一を見る。
みや「俊くん何言ってんの?」
みやの頰を撫でる俊一。
俊一「へへ、プロポーズ」
微笑むみや。
俊一「あ、ごめん。電話だ」
俊一、ポケットから携帯電話を取り出す。俊二の文字。
俊一「弟。……もしもし?」
眉をひそめる俊一。
俊一「え、母さんが? わかったすぐ戻る」
みや、心配そうに見る。
俊一「母さんが倒れたって」
立ち上がる俊一。
○病院・中(夜)
足音が響き、俊一、ドアから病室に入ってくる。前島直子(50)、ベッドで管に繋がれて寝ている。直子の隣には、沈痛な面持ちで俊二が座っている。
俊二「兄貴は遅いよ。母さんの体調悪いの、知らなかっただろ」
俊一「一緒に住んでないんだから、言われなきゃ知らねえよ」
俊二「親不孝者」
直子、少し身じろぎをする。
俊一「母さん、何」
俊一、しゃがみこんで直子の手を取る。直子、言葉を発そうとし、俊一、耳を直子の口元に近づける。
直子「俊二」
俊一、顔を凍りつかせる。
○葬儀場・待合室・中
喪服姿の俊一、俊二、座っている。テーブルの上に黒縁の額に入った直子の写真。前島小夜(25)、緑茶を煎れ俊一と俊二前に置くと、部屋を出て行く。緑茶を一口飲む俊二。
俊二「そういやさ、百五十万だって」
俊一「何が」
俊二「うちの相続税。三百万だから、俺と兄貴で割り勘で百五十万。あと固定資産税がこれからだいたい月三万円。振込よろしく」
俊一「は? なんで俺が出すの当然みたいになってんの」
俊二「だって兄貴のうちでもあるじゃん」
俊一「住んでんのはお前たちだろ」
俊二「いや別に、家出たのは兄貴の勝手じゃん。帰ってきたかったらいつでも帰ってこいよ」
俊一「お前が小夜と結婚なんかするからだろ」
俊二「はあ?」
俊一「お前が小夜と結婚したから俺は家を出たんだ」
俊二「は?」
俊一「弟の妻になった元恋人と狭い家で同居する身にもなってみろ」
俊二「じゃあ何? 俺たちが兄貴に遠慮して家を出てけばいいって言いたいわけ」
俊一「そもそも、母さんと仲良かったのもお前だろ。住まない家とかいらんし」
俊二「何言ってんの。兄弟じゃん。どっちが仲いいとか、そういう問題じゃないだろ」
俊一「そういう問題なんだよ」
緑茶を一気に飲み干す俊一。
○美術館・中(夜)
「アベルを殺すカイン」が壁に展示されている。俊一、その前に腕を組んで立っている。
橋本の声「先輩!」
振り返る俊一。橋本大樹(23)が近づいてくる。
橋本「決まりました? 今度の解説文」
俊一「うーん。まだ悩んでる。そもそもなんで、神様はカインの供え物を無視したんだろうなって」
橋本「農耕民と狩猟民の対立とか、いろんな説があるんですよね。僕が読んだ本では、カインはただできたものを供えたけど、アベルは一番いいものを供えたって。だからアベルの方が優秀だったと」
俊一「神って親みたいなもんだろ。親ならできの良さじゃなくて、もらったもんならなんでも喜べや」
橋本「まあそうですけどね。カインは自分の供え物の方がイマイチだったって態度で見せられたのが嫌で、その怒りが弟にいったのかもしれませんね」
俊一「優秀じゃないのも神様のせいじゃないのかよ」
橋本「そう言っちゃったらそうですけど」
俊一「できの悪い兄貴はいつだって辛いんだ」
橋本「でも先輩、僕たちはみんなカインの子孫ですから! アベルの子孫はいないんですよ、死んじゃったんですから。聖書的には僕たちは皆できの悪い遺伝子の子孫です」
俊一、橋本の言葉を聞いて微笑む。
○喫茶店・中
俊一が喫茶店の奥に座って、ショートケーキを食べている。テーブルの上には八等分されたホールケーキ。その隣にスマホが置いてある。
スマホが振動し、「俊二」と表示される。表示に目をやるが、ふた切れ目のショートケーキに手を伸ばし、応答しない俊一。俊一、ショートケーキの上のイチゴに力強くフォークを突き刺す。
俊一「お前には分けてやんねーよ」
終
引用 https://ja.m.wikisource.org/wiki/創世記(口語訳)
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