十二カ月の石の話(十一月)

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十二カ月の石の話(十一月)

cf635861-2b1a-488c-86bd-1dc87f0a88fa  僕はAl2SiO4(F,OH)2。みんなには黄玉かトパーズって呼ばれてる。  ミノルのところには、ミノルが十歳のころにやってきた。それまではミノルのパパのところに。  ネクタイを留める仕事をしてた。 「君って何色なの?」  ある日、ミノルが僕に聞いた。何色だと思う? 「もらった時は黄色っぽかったけど、今はピンクっぽくない?」  君にそう見えるんならそうなんだよ。  僕は色々な色に変わることができるからね。 「俺ねえ、好きな人がいるんだ」  最近のミノルは機嫌がいい。  ピンクは、僕の本当の色じゃない。熱を加えてできたもの。シャンパン色になることはあるけど、ピンクとは違う。  ミノルは僕に、その人の話をした。遠くからでもその人がいればわかるとか、今日会いたいなって思っていたら会えたとか、そんな話。 「最近青味がかってきたね」  寝る前に僕を眺めていたミノルがそんなことを言う。  ミノルが寝てから改めて自分を見ると、僕は自分が青い海に沈んでいるのを発見した。  寒い。静かだ。誰もいない。  静かすぎて耳が痛い。  耳が痛くなるような孤独。  ……ミノルは、大丈夫かな?  だけど、僕に出来ることはベルベットの箱の底で眠るだけ。  子供のミノルにはネクタイを締めることなんてないからね。 「本当の君の姿はそれ?」  だいぶ経ってから、ミノルが僕に聞いた。僕の色はほとんどなくなっていた。  そうかも。ずっと誰かの色に染まっていたから忘れていたけど、本当はこんな色だったかな。 「一緒に出かけようか」  ミノルに言われてびっくりした。ミノルがネクタイを締めている。  いつの間に大人になったんだろう?  一緒に鏡に映るのも初めてだ。びっくりしてキラキラしていると、鏡の中のミノルは僕に向かって微笑んだ。 「あの人には、本当の俺を知ってもらいたいんだ」 終 十一月の誕生石【トパーズ】Topaz、黄玉  私の誕生石はトパーズで、私もミノルと同じように父から黄色いタイタックをもらいました。使い道もなく実家のどこかになくしてしまいましたが。  このトパーズ、近年色々な色がたくさんお店に並んでいますが、私はあまり好きになれませんでした。というのも、なんとなく人工的な感じがしたからです。宝石の本を読むと、ブルートパーズのほとんどは放射線照射で色をつけたもの、それ以外も加熱で色をつけたものが多くあるようです。  無処理で多いのは黄色か、カラーレストパーズといって透明なもののいずれかだそう。でもカラーレストパーズはキュービックジルコニアが製造されるようになるまでは、ダイヤモンドの代替品として使われたとのことで、色を変えられたり他の石の代わりとされたりのトパーズがなんだかとっても不憫になって、こんなお話ができました。  これからはミノルとたくさんお出かけができるといいですね。 参考文献:諏訪恭一「価値がわかる宝石図鑑」ナツメ社
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