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ラルマダ祭の秘密
診断メーカーさん、さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943
に、
楢川えりかさんは異国の祝日に、水気が残るユニットバスの中で物陰に隠れてこっそり聞いた話をしてください。
とお題を出されて去年書いたもの。フジョッシーさんに連載してた大人向けのBL(「私は夢に生きたかった)に出てくる主人公の初めての恋人の過去でした。
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ラルマダ祭。
五年に一度の帆船のお祭りだ。
その日は家に帰ってきちゃいけないって、何度もママンに言われてた。
もちろん僕だって、そんなつもりはなかった。幼馴染のパトリスとたくさんの船を見る予定で。
ずっと楽しみにしていたんだ。
だけど、アパルトマンに帰ってきたのは、パトリスと喧嘩したから。パトリスが、ひどいことを言ったから。
僕のママンは「どろぼうねこ」だって。
意味はわからないけど、悪口だっていうのはわかった。だって前も、すごく嫌な顔で近所のアガタもそんなことを言ってたんだ。
家に帰ったらママンも出かけたのか、うちには誰もいなかった。
僕は大好きなパトリスまでがそんなことを言ってきたのが悔しくて。随分泣いたから、目が真っ赤になっていたから、バスルームで顔を洗った。
がちゃり。
鍵が開く音がする。
僕は慌ててバスタブの中に身を隠す。
家に帰ってきちゃいけないって言われたのを思い出したから。
座り込んだバスタブの中は濡れていて、僕のズボンはびっしょりになった。うちで朝シャワーを浴びる人はいないのに、変なの。
ママンの話し声がする。ひとりじゃないみたいだ。話しているのは低い声。男の人みたいな。
警官のパパは今日はお仕事なのに、誰だろう。うちに来る男の人なんてそんなにいないはずなのに。
「愛してるわ、シプリアン」
ママンの甘い声がした。
……パトリスのパパだ。
ママンといるのは。
そのとき、僕はわかったんだ。
間違っていたのは僕の方だったんだって。
ママンは「どろぼう」だったんだ。
謝らなきゃ。
ママンたちが家を出て行ったら、パトリスの家に行って、パトリスに謝らなきゃ。
……間違ってたのは僕の方だったって。
終
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