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師走の商店街にて
12月初旬、外回りを終えたヒロシは東急池上線・戸越銀座の駅改札前に立っていた。仕事はもう終わりでオフィスには戻らずそのまま直帰扱いにしようと決めていた。会社にはその旨を連絡を入れて今日は上がだ。師走という季節柄、今宵も忘年会がこの商店街の居酒屋であるのだ。
時計を見ると17時半を指していた。既に日は落ちているが忘年会の開始時間までにはあまりにも早過い。賑やかな戸越銀座の雰囲気を感じて、時間潰しに商店街見物にぶらりすることにした。ここは日本一長い商店街通りだ。見ていて飽きない。年の瀬というにはまだ早く、古い商店街なりのクリスマス気分で賑わっている。
この時間にして、この気温にもかかわらず店の軒先で杯を交わす人達もいる。唐揚げ屋、焼鳥屋、餃子屋・・、庶民的で惹かれる。その光景が恨めしくヒロシはつぶやいた。
「腹減ってきたなぁ。待ち合わせまでは時間があるし、軽く一杯飲んでいくか。」
長い商店街を半分過ぎたところだった。ふと横を見ると、商店街通りの路地前に立ちかけてある小さい黒板を見付けた。長い電源をケーブルをどこからか引っ張ってきて小さな電球で可愛く照らしている。黒板には色付きチョークでカラフルにこう書かれていた。
『Barオパール ~AM2:00』
ヒロシは思案した。バーがこの早い時間からやっているかどうかはわからないが、黒板が出ているということはやっているのだろう。路地へと入ってみた。ひっそりとした路地でとても店がある雰囲気ではない。長い電球の電源ケーブルを辿っていくと、10mほど入ったところに果たしてそのバーはあっさりと見つかった。
外見からみるとおよそバーのような感じはしない。道に面した建物の前面左側3分の2はシャッターが降りている。そして残りの3分の1にアルミ製のドアがあった。何かの無機質な倉庫のような雑然とした建物だ。
「ここが、バー?」
だが、アルミ製のドアには『Barオパール』と表札替わりの手書きの小さい紙がぶっきらぼうに張られている。どうやらここがお店らしい。こうなると元々バー好きのヒロシだ。時間潰しに覗いてみることにした。
「庶民的な商店街にこの早い時間でぼったくりバーであることもないだろう。」
ヒロシは、ドアを開けてみた。
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