1 治世の能臣、乱世の姦雄

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「しかし、立派な息子よのお」 その言葉に子をあやす夏候嵩の手がぴたりと止まる。 「え? あ、あの、この子は女の子です」 「! なんと!? おなごとな? もう一度見せておくれ」 「あ、は、はい」 そっと赤子を受け取り、くるんだ布を緩めると確かに男児の(シンボル)はついていない。股間を見つめている曹騰を赤子は意味ありげに「くひゅっ」と笑う。 「うーむ」 見れば見るほどこの赤子は素晴らしいと思えてくる。もう理由などなく、この子のためなら財産どころか命さえも惜しくない気がしてくる。たとえ、女児だとしてでもだ。 「そなたを養子に決めよう」 「おお! ありがたい! 生涯かけて父と仰ぎお仕えいたします!」 「うむ、うむ」 こうして夏候嵩は曹騰の養子となり、曹嵩(そう すう)巨高となる。そしてこの赤子が曹操孟徳(そうそう もうとく)である。彼女は曹騰のもとで健やかに何不自由なく育つ。曹騰も実の父、曹嵩も曹操が何をしても諫めることなく、溺愛して育てたおかげで彼女の(スケール)を小さくすることはなかった。  教育から、肌につける衣服まで手ずから選び、まるで天子に仕えるがごとく、曹騰は曹操に全てを与えていく。また彼女の方も全てを吸収していくのは海綿の如しである。曹騰にとっていつの間にか漢王朝ではなく、曹操孟徳が己の全てとなっていくのであった。
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