1 治世の能臣、乱世の姦雄

1/8
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ

1 治世の能臣、乱世の姦雄

 四男坊である曹騰(そう とう)季興は年少の頃より漢王朝に宦官として、後漢の第六代皇帝、安帝から後漢の第十代皇帝、質帝まで四代に渡り三十年以上仕えた。曹騰は権力欲を持たず、勉学に励み素直に帝に仕えた結果、最高位を得たという、宦官の中でも稀有(レア)な存在である。 腐敗していく朝廷にそれでも真摯に勤めていたが、質帝が臣下の梁冀に擁立されたにもかかわらず、彼の専横ぶりに不満を漏らしたため毒殺されたことをきっかけに引退(リタイア)を考える。 しかし次に梁冀よって擁立された桓帝を一目見るととても優れた皇帝になるでろうと予見し留まる。曹騰は宮廷の中で静かに人物を見極め続けていたため、鑑識眼があった。 案の定、桓帝は梁冀一族三百人以上を謀殺し親政を始め、残った宦官たちは優遇され勿論、曹騰も恩恵を賜る。これで一安心かと思えたが、今度は宦官が権力を持ち始めた。中でも曹騰の目を引いたのは若き張譲である。彼は穏やかさと品の良さで人々の中をうまく立ち回っているが時折見せる鋭い豹のような瞳が曹騰に梁冀を思い起こさせる。 「これはよくない。しかし、もう彼に対抗できるものはおらぬだろう」 漢王朝の断末魔の叫びが聞こえるようだ。生涯心を込めて仕えてきた王朝が汚され蹂躙されることは、わが身を斬られるよりも辛い事であった。彼はもう漢王朝の一部なのだ。ちょうどよいことに桓帝は一部の貢献度の高い宦官たちに養子を持ち、財産を相続させることを許可している。 こうして曹騰は漢王朝を守りたい一心で養子を求める。曹騰の養子になりたいと希望する者は多かった。権力はおろか財産も相当であったので、あわよくばと狙う輩は多い。曹騰としては野心のない平凡な男を養子にするつもりは勿論ないが、欲望だけを目的とする小人も避けた。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!