1 治世の能臣、乱世の姦雄

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 ある時、曹氏と姻戚関係のある夏侯氏一族のもので養子を希望する者がいるので面接を行った。勤勉で忠孝を重んじるというなかなか良い評判をもつ夏候嵩(かこう すう)巨高だ。彼は末子で家督を継ぐことはなかったが、すでに結婚し一人の子供を設けていた。 「どうして養子になりたいと思ったのだ?」 曹騰は子をあやしながら面接に来た夏候嵩に尋ねる。 「それは、この子のためなのです。どうぞ見てやってください。あなた様ならこの子がどんな子かわかるでしょう」 立派な夏候嵩は柔らかい赤い布にくるまれた赤子を優しく丁寧に差し出す。 「ふ、む。赤子のためとな」 どれどれと布の中を覗き込む。中にはつやつやした豊かな髪とはっきりした眉、するどい目つきで指をしゃぶる、ふっくらした赤子がいた。曹騰に気づくと赤子はじっとこちらを逆に、興味津々とばかり覗き込む様に見入ってくる。数多の皇族の赤子を見てきたが、このような人を見透かすような赤子はいなかった。 「うーむ。このような赤子は確かにみたことがない。生まれたばかりでこのような貴人の相があるのも聞いたことがないわい」 「でしょう、でしょう!」 嬉しそうに夏候嵩は赤子を抱き上げる。 「ほうら、やはり褒められたぞ。いい子だ! いい子だ!」 赤子は嬉しそうに声を上げている。親ばかであると言えばそれまでだが夏候嵩自身も能力が高く、養子にならなくてもそれなりに出世していくであろう。しかし彼は自分自身の事を望んでいるのではなかった。 「わたしはこの子のためなら、出来る限りのことをしてやりたいのです」 「まあ、その気持ちはわからんでもないなあ」 優れた人物を見極めては推挙してきた曹騰にも理解できることである。
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