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初春の麗らかな日の事である。
「おじい様、ちょっと出かけてきます」
そう言って年頃の娘になった曹操は礼儀正しく曹騰に一礼する。
「おうおう。気を付けるのじゃよ」
「はい!」
目を細め曹騰は曹操の小柄ではあるが、姿勢よく堂々とし麗しい後姿を見送った。
曹操は屋敷を出て、ふらふらと宦官の張譲の屋敷に向かう。もう時代は霊帝の時代になっていて曹騰が予見した通り、張譲が中常侍となり朝廷を牛耳っていた。
張譲のことは噂と曹騰の話でしか知らなかった。彼は天子の代わりに政を行い、逆らえるものは誰もいないらしい。天子ですら彼に意見することを遠慮するらしい。
曹操はなぜ一宦官がそのように権力を持てるのか、不思議でならなかった。彼女はまだ従兄弟の夏侯惇や曹仁たちなどの気心に知れた仲間たちとつるみ、利害関係のある人間関係を構築していなかったのでより理解に苦しんだ。そこで百の話を聞くよりも一度見たほうが早いであろうと、屋敷に戻っているであろう張譲を見に行くことにした。
屋敷は長い壁にぐるりと覆われている。
「わが屋敷の何倍であろうか」
曹騰の屋敷もまずまずの大きさであるが、彼自身住まいに執着はなく質素であった。曹嵩を養子とし、曹操を跡継ぎと決めてからはより一層、簡素な暮らしになる。彼女のために財産をできるだけ残したいがためである。
一段低い壁を見つけ、そばに生えている木の陰に入る。誰もいないことを確かめて、彼女はひらひらした下衣を脱いで木の根元に置き袴姿になった。
「さて、どんな人物であろうか」
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