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「愛美ちゃん!?」
学校の帰り道。
尚斗さんが、驚いた顔でかけよってきた。
「あら、尚斗さん。久しぶり」
あたしは、とびきりの笑顔。
ニューヨークに来て、二週間。
やっとこの日が訪れた…!!
「マナミ、誰だい?」
「あなたには関係ないわ」
一緒にいた、クラスメイトのウェインの背中を押す。
「バイバイ」
「……」
ウェインは不満そうに、何度も振り返りながら歩いて行った。
「偶然ねー。尚斗さん、この辺なの?」
偶然だなんて、嘘。
調べつくして、何度もこの道を歩いた。
「愛美ちゃんこそ。留学ってのは聞いたけど、この近く?」
「姉妹校があるの」
「ああ、ハビナスね」
「尚斗さん、今日はお休み?」
毎日気合いを入れて着ている服。
今日のニットスーツも、尚斗さんの好きな水色。
「うん。久しぶりの休み」
「じゃ、どこか連れてって?」
「今の彼氏は?」
「彼氏じゃないわよ。ボーイフレンド」
「へえ、結構カッコイイ子だったね」
もう。
そんなこと、どうでもいいじゃない。
「ね、夕食でも一緒に…」
「ごめん。今夜は約束があるんだ」
「…約束?」
ああああああ…残念…。
でもまあ…そうだよね。
今日の事を今日言ったって、ダメな事の方が多いよね。
「ああ。また別の日にでも。あ、これ事務所の住所。だいたいここにいるから」
尚斗さんはそう言ってポケットからペンを出すと、持ってた買物袋の紙を少しだけちぎって住所を書いてくれた。
「…行かないかもよ?」
すぐにでも行きたいクセに、あえて駆け引きに出る。
「彼氏も誘っておいで」
だーーーかーーーらーーーー!!
「もう、ボーイフレンドだってば…じゃあね」
本当はまだ話していたいけど…
印象付けるには早めに引いた方がいい。
そうしたら尚斗さんも…
「あ、愛美ちゃん」
…ほら来た!!
「?」
嬉しいクセに、ふくれっつらのまま振り返る。
すると、近付いて来た尚斗さんは…くいっとあたしの顎を持ち上げた。
「…え?」
「まだ、赤は早いんじゃないかな」
そう言いながら、親指であたしの唇を拭う。
「ちょっ…」
「黙って」
な…ななな…
何これ…!!
ドキドキして、瞬きも忘れたまま尚斗さんを見つめる。
「……」
「あ、ちょっとはみ出した。ごめん。」
クスクス笑いながら、あたしの唇の周りを拭いてくれる尚斗さんに…あたしは真っ赤になりながら見惚れてしまう…
…はっ…!!
「も…もう!あたし、子供じゃないのよ!?」
慌てて尚斗さんの手を振り払うと
「愛美ちゃんは素顔がいいって。じゃあね」
尚斗さんは、昔から知ってる笑顔で手を振って、通りの向こうに走って行ってしまった。
「……子供じゃ、ないんだから…」
わなわなと震えながら、つぶやく。
童顔だから、素顔のままじゃ尚斗さんに似合わない。
大人っぽい女になりたくて、メイクも習った。
尚斗さんのために、磨きをかけるために…勉強だって、うんとした。
18歳…よ?
もう…結婚だって、出来る歳。
「……」
拭われた唇に触る。
尚斗さんの指の感触を思い出して…
「わかってよ…早く」
小さくつぶやいた。
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