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「マナミ、ステディリングしてないけど、フリーなの?」
留学して一ヶ月。
突然、隣の席のジェニーに言われた。
この学校で指輪をしていない子は『恋人なし』と、みなされるらしい。
そう言えば、男の子も彼女のいる子は指輪してるなあ…
「ううん、フィアンセがいる」
あたしが笑顔でそう答えると。
「あら、それじゃ指輪ぐらい買ってもらいなさいよ」
ジェニーは頬杖をついて言った。
「どうして?」
ノートをめくりながら問いかけると。
「あなた、きっとフリーだって、いろんな男の子が目をつけてるわ」
「へえ」
あたしって、モテるんだ。
確かに日本でも告白はされてたけど。
あたしには、尚斗さんがいるもの。
「ね、マナミのフィアンセって、どんな人?」
「バンドマン」
「バンドマン?大丈夫なの?」
「何が?」
「この辺でバンドしてるのって、女の子にモテたいからって奴ばっかりじゃない」
ジェニーは、あからさまに辟易したような顔で首をすくめた。
んー…そうか。
そういうイメージって強いよね。
クラスの男の子も何人かバンドを組んでるみたいだけど、みんな微妙な感じでカッコつけてて…残念にしか見えない。
どうせなら、もっと堂々とカッコつければいいのに。
「あー…でも、プロだから」
「え~っ、すごいじゃない。紹介してよ」
「うん…でも、忙しいみたいだから…」
実際、あたしは何だかんだ言いながらも、五回事務所を訪問した。
だけど尚斗さんは忙しいみたいで…
ちょうど『録りが終わった』っていうまーくん(朝霧真音)と『ひっさしぶりやねー』って、関西弁で盛り上がって…
尚斗さんはそれを、まるで保護者みたいな顔で…キーボードの前に座ったまま、優しく笑って見てた。
約束のディナーも、まだ。
これじゃ…デートなんて、いつの話になるやら…
「何、有名人?」
「Deep Redってバンドでキーボード弾いてる」
あたしがそう答えると、ジェニーは一瞬黙ったあと
「冗談キツイわよー」
ケラケラと笑い始めた。
むっ…
どうして冗談?
「どうして?本当よ?」
「だって、それってナオトでしょ?」
あら、有名だな。
「そうよ」
「ナオトには、カレンっていう彼女がいるもの」
「……」
頭の中が、真っ白になった。
彼女?
そういえば、あたし…そんなこと聞いたこともなかった。
彼女がいるかどうかも確かめもせず…
尚斗さんを追って、ここまで来てしまった。
「残念ね」
ジェニーがクスクス笑いながら、席を立った。
あたしは惨めになって立ち上がる。
そして、尚斗さんの事務所に向かった。
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