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夢と欲望のデザイア１
一九七八年九月一七日。私は京都市内の産婦人科でこの世に生を受けた。安産で母をそこまで苦しめることなく生まれたらしい。当たり前だけれど当時の記憶は残ってはいない。だからこれは周りの大人たちから聞いた話だ。
祖父母と両親には「月子はすんなり生まれてくれたから助かったわぁ」とよく言われたものだ。
私の実家は江戸時代から続く呉服問屋で、経済的にも何不自由ない幼少期を過ごせた。本当に『何不自由なく』という言葉がぴったり合っていたと思う。家族は私が欲しがった物はほとんど買い与えてくれたし、習い事も好きにさせてくれた。裕福なことが当たり前過ぎてあまりありがたくは感じなかったけれど……。
あれは三歳のときだ。私は歌番組が好きで幼児向けアニメよりアイドル歌手に熱中していた。
「月子ぉ、あんたほんまに歌手が好きやなぁ」
祖母は優しい声で言うと、私を膝の上に抱えて撫でてくれた。
「せやでー。めっちゃかわええ……」
私は彼女に強い憧れを抱いていた。別世界の人間のように思えた。実際、別世界なのだけれど、どう足掻いても手が届かない気がした。
『はい、ありがとうございました。いや！ 素晴らしいですね』
テレビの中で司会者がそのアイドルに歩み寄る。
『はい！ ありがとうございます』
彼女は汗を拭うとカメラに微笑んだ。彼女の衣装は特徴的なもので、和服を着崩してドレスのように仕立てた衣装だった。和の吉祥(きつしよう)文(もん)様(よう)が散りばめられ、幾(き)何(か)学(がく)的な模様を作り上げている。
『……。いや、僕もすっかり聴き惚れてしまいました。○○さん！ 今後の抱負などあればお伺いします！』
司会者の問いかけに彼女ははにかみながら答える。
『そうですね……。目標は武道館単独公演をしたいと思ってます。もし、実現したら皆さんもぜひ来て下さいね』
観覧席から割れんばかりの拍手が起きた。私もつられて拍手をする。
「おばあちゃん！ ウチもぶどうかんゆーとこで歌いたい！」
「ハハハ、ええね。したらいっぱいお歌の練習せなあかんなー」
祖母は笑いながら何回も肯いていた。思い返せばあのときだったと思う。私が人生の目標を設定したのは……。
同じ頃、私は生涯で一番意味のある出会いをした。同い年の少年。少年というには幼すぎた気もするけれど……。
岸田健次と出会ったのは丁度その頃だった。
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