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はじめて家を借りました。
「いい家じゃん。」
はじめて二人暮しをします。
「なぁ、聞いてる?」
..、
「おい、無視すんなよ、見えてるの知ってるから」
「..いや、あの、」
「やっぱ見えてんじゃん」
「なんでまだ居るの。」
「そりゃ居るでしょ、憑いてるんだから」
そう、僕は幽霊と二人暮しを始めます。なんで「まだ」居るのかと聞いたのは、お祓いをきちんと受けたから。僕は元々幽霊が憑き易いようで、霊媒師だったおばあちゃんに払って貰う事が多かった、勿論、今回も。
「おばあちゃんに払ってもらったはずじゃ..」
「おま、俺を馬鹿にすんなよ?そこらの底辺幽霊と一緒にすんな」
「僕にとっては全部同じなんだけど、」
「でもお前、俺が憑いてから他の霊憑かなくなったろ?有難く思えよな〜」
初めてこんな図々しい霊に出会った。そしてこんなにもきちんと話せてきちんと姿形が見える霊も初めて、
「..で、貴方なんで僕に憑いてるんですか?」
「なんで、って..憑きたいから?」
「あれですか、死んじゃう感じですか?僕、まだ死にたくないんですけど、..」
「死なせねーよ。俺が憑いてから別の霊は寄り付かねーし、まずお前を守ってるって言ってもらいたいね」
「はぁ、..でも、僕より女の子に憑いた方が楽しくないですか?」
「童貞感丸出しだな。俺は別に女の裸見たいとかじゃねーの。」
よく分からない。まずこの人、幽霊は本当に死んでいるのかな、..あまりにも形が綺麗だ。幽霊になる、という事はこの世に未練があるという事。未練がある様な感じは伺えないし、..
「おい、荷解きしろよ」
「あ、はい。」
後ろに憑いてくる姿に足もある、ただ浮いてるだけ。
「つかさぁ..」
「はい?」
「お前、」
「なんです?」
「..やっぱいいや、さっさと片付けて飯食えよ。」
そう言うと、パッと消えた。なんて自由な..とは思いつつ消えてくれた事に少しの安心感があった。
「..確かに、憑いてから頭も痛くならないし、変な夢も見ない、..何なんだろう。」
片付けた部屋、漸くふかふかのベッドに横たわれば幽霊について気になる事があった。今まで憑く幽霊と言えば、原型を留めてなかったり、頭の中で叫んでたり、兎に角迷惑なもので、..でもこの幽霊には全くなかった、全く。
──────── .. ッ!!
身体が動かない、金縛りだ、..
目を開けていたのが不幸中の幸いか、唯の不幸なのか、それは分からないけれど目の前に数ヶ月ぶりの光景があった。
頭から血を流して、目玉は飛び出て、骨は曲がるはずのない方向へ曲がり、世を憎んだかの様な雰囲気、辛うじて嵌っていた片方の目玉は僕を捉え、黒い口元が歪んだ
取り憑く気だ、それは既に分かっている、けれどそれがどんどん僕に近付いて、恐怖と気持ち悪さが湧く..
──────── !
扉が勢いよく開いた。力を込めて視線を其方へと動かせば見慣れた姿があった
「俺が居ねえ隙見計らって憑いてンなよ、底辺野郎..!」
「..な、え、..なんで」
僕に憑いていた、幽霊の筈だった。けれどその足は確かに床を踏んで、確かにその手は僕の肩を掴んだ
「お前、本当憑かれ易いな、..休む暇もねーわ」
「貴方、幽霊なんじゃ、」
「まじで気付いてなかったのか?..俺、お前のばーさんの弟子で、生霊としてお前に憑いてお前を守ってたわけ。分かる?憑こうと思っても無理だったからおかしいと思ってきたんだよ」
「え、聞いてない。おばあちゃんの弟子?なんで?」
「ばーさん死んだらどうも出来ねぇだろ、だから俺が、付きっきりでお前を守ってやるンだよ、有難く思え」
ぴらぴら、と摘んだ御札を揺らしながらふんぞり返る姿、確かにこれはあの幽霊だ。
「じゃ、これからよろしくな?」
「え、住むんですか?」
「一々走って来れるかよ、」
..ということで、ちゃんと生身の人間と二人暮し、始めました。
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