試作品と呼ばれた子ども

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試作品と呼ばれた子ども

 ぽつんとベッドと学習用のデスクがある部屋に黒羽はいた。  窓もなく、鍵のかけられた鉄の扉があるだけの部屋。  机には読みかけの本に食べかけのクッキーの入った袋と日記がおいてある。  黒羽はベッドの上で横になり、真っ白な天井を眺めていた。  ガチャ  静かな部屋に扉が開く音が響いた。  その音を聞くと黒羽は起き上がり、扉の方を期待の眼差しで見つめた。  ゆっくりと開いた扉から、入ってきたのは…… 「よう!大人しくしてたか?黒羽ー!」 「……フェニですか」  黒羽は扉から入ってきた赤髪の女を見ると少し寂しげにその名を呟いた。  フェニと呼ばれた女は人房だけある金色の前髪をかき、ばつが悪そうに笑った。 「カクじゃなくてゴメンな……その……しばらく来てないもんな。」  フェニの言葉に黒羽は首を横にふった。 「あの人はおそらくもう来ない。……フェニもレイもみんな来なくなると思います。」  灰色の瞳は不安そうに揺らぐ。  フェニは優しく黒羽の頭を撫で抱き寄せた。 「大丈夫。あたしたちはお前の側にいるよ。  ……カクもそのうち帰ってくるさ。」  黒羽を安心させるように  そして、自分に言い聞かせるようにフェニは呟いた。  あの事件からカクは礼奈と共に姿を消した。  レイも行き場所は聞いていないらしい。  残された者は皆、アプスの今後が不安だった。  そんなフェニをまっすぐ見つめ黒羽は呟いた。 「でも、もし戻ってきても……」  表情を変えず、黒羽は応えた。  その回答に一瞬、フェニの表情は凍り付く。    やはり黒羽(この子)は……  いや  まだ間に合う。  この子を……  ちゃんと導いてあげれば  それがあいつの  カクの願いだから……    ―――アプスの驚異になるようでしたら、私は彼を処分するだけです。  黒羽のその言葉をかき消すようにフェニは黒羽を強く抱きしめた。  
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