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路地裏中に、フーちゃんの大きな声が響きわたったとさ。
「グスッグスッ。歌子ちゃん酷いよ・・・」
私は今日も、細い細い路地裏で泣いている。
「なにも、皆の前で言う必要なんて、無いじゃん・・・」
私は、どうやらいじめられているらしい。
らしいと言うのは、私はそうは思っていないから。ちょっとしたいたずらだって、思ってる。いや、思いたいだけかもしれない。
「ううっ」
いつもは、耳元で「バカ~」とか「近寄らないで~」とか、少し意地悪なことを言われるだけ。でも、今回は違う! いつも泣いちゃうけれど、今回はさすがに酷すぎるよ・・・。
クラスの皆の前で、私の好きな人をばらしちゃうなんてっ! 絶対しない、って信じてたのに。だから教えたのに。
・・・今思えば、私から好きな人を聞き出すときはすごくニヤニヤしていたし、結構無理矢理だった気がする。
「ううっ、グスッ」
はぁ、学校、行きたくないなぁ。
そんなことを思っていたとき、ツンツンっと、誰かが私の肩をつついた。でも、私は気付かない。
「あのぉ」
そんな、控えめな声で、私はやっと気付く。
パッと後ろを振り返る。
「あれ? 誰もいない?」
な、なんで? も、もしかして、おばけ・・・?
「上だよ、上」
上?
その声で、私はヒョイッと上を向く。
「やっほ~」
ポカーン。
『開いた口が塞がらない』とは、こういうことだと思う。あまりわからないけれども。
「えーと、ちょっとは反応をしてくれると嬉しいなぁ」
ポカーン。
私の口は、まだ塞がらない。
さっきから何故、私が口をあんぐりと開けているかと言うと、私の頭上に、おばけさんがいるから。
あ、絶対に信じてないよね? いるよ、本当にいるんだよ! フワフワ~って浮いていて、エヘヘって感じに笑ってるんだよっ!
「わ、私は美味しくないよ!」
長い長い沈黙の後に、ようやく出てきた言葉はそれだった。
「ちょっとぉ、食べたりしないよ!」
おばけさん(仮)は、心外だなぁ、という顔をする。
「だ、誰なの?」
『食べたりしない』という言葉に何も返さず、私は質問を続ける。
「なんか言ってよぉ。僕は、おばけだよっ!」
見たら分かる、と思ったのは、私だけだろうか。
「それにしても、涙が止まって良かったよ。せっかくのかわいい顔が、台無しだよ」
そういえば、いつの間にか涙は止まっていた。
・・・『かわいい顔が、台無しだよ』ってことは、つまり、泣いている顔は不細工だと。
初めて会った人に、何故そんなことを言われなくちゃいけないのだろう。
「ところで、誰なの」
怒りを少し、込めて言うと。
「お、怒らないでよ。怖いよ」
と、大袈裟に仰け反る。
なんだか可愛いなぁ。
でも、質問に答えてないから、怒る。
「で、誰なの」
少し睨んでやった。
「おお、怖い怖い。だから僕は、おばけだって言ったじゃない」
まさか、それが名前なの!?
そんな疑問を読み取ったように、おばけさんは言う。
「おばけには普通、名前がないんだよ」
へぇー。別に興味は無い。
「興味無さそうだね! そっちから聞いてきたくせに・・・ぶつぶつ・・・」
おばけさんは、拗ねている。
やっぱり、可愛いな!
「ねぇ、おばけさん! 名前が無いなら、私がつけてあげるよ!」
名前をつけるのって、楽しそう!
素直にそう思った。
「つけてくれるの? 本当に?」
おばけも、なんだか嬉しそう。可愛い。
「もちろんだよ、『名無しのゴンベイ(仮)』ね! 良い名前でしょ?」
自信作! おばけさんも、喜んでくれるはず!
「と、どこが良いんだよぉ! 嫌だよ、そんな名前!」
ガーン!
期待していた分、大きく落胆することになった。
なんでぇ? 何が駄目なの・・・。
「漫画とかによくあるやつじゃないか! もっと、僕らしい、カッコいい名前をつけてほしいのさ」
そんなぁ。『僕らしい、カッコいい名前』って言われても、このおばけさんは可愛いのに。僕らしい名前がいいって言ってるから、可愛い名前でも良いのかな?
「な、何、そんなキラキラとした目で見つめても、僕の名前は名無しのゴンベイ(仮)には、ならないよ」
そんな、おばけさんの話など、私は全然聞いていない。
何にしようかなぁ。
と、グルグルと思考回路を回している。
「あ、思い付いた! おばけさんの名前は、フーちゃんね! フワフワ浮いてるから!」
僕(おばけ)は思った。
「なんだこの子、センス無さすぎか」
と。そして、こう叫ぶ。
「なんで、『ちゃん』なんだよー! 僕は、れっきとした男の子なんだよぉ!」
そんな疑問に、私は即答する。
「だって、フーちゃん、『自分らしい名前がいい』って言ってじゃん。だから、それなら可愛い名前がいいんじゃないかと・・・」
「僕は、男の子だぁ!」
路地裏中に、フーちゃんの大きな声が響きわたったとさ。
おしまい。
チャンチャン!
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