第一章 画面の向こうの光景

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 彼女が家に入ったのを確認して、朋宏は隣りの自宅へ向かった。  同じ時期に二家族は、この建売住宅を購入している。だから間取りが同じで、外壁と屋根の色合いが少し違う程度だ。でも、室内は全然雰囲気が違っていて、同じ間取りだと、逆に個性が強く出ると朋宏は感じていた。  娘だからか、柚木(ゆずき)家は淡い色調に包まれている。それに対して朋宏の北川(きたがわ)家は、母親がバリキャリでもあるせいかシンプルだ。余計な装飾は不要、という感じでもある。  朋宏は男なので良かったと思っている。母親がもし飾り立てるのが好きなら……想像するだけで恐ろしい。  両親はまだ帰宅していない。忙しいのだ。塾も決して早く終わるわけでないけど、それよりも遅い。働くことが大変だと、朋宏は心配になる。  だから、帰宅してから夕食の支度をするのは朋宏の役目だ。あまり凝った料理は無理だけど、それなりのものは作れる。料理は慣れだと少年は思っていた。  今日は少し寒くなってきたから簡単にカレーを作った。少し多く作ったら明日以降が楽になる。それに寝かせると美味しくなる。  慣れた手つきで包丁を使って鍋に材料を入れて、炒めてから煮込んで……食欲をそそる香辛料の匂いが室内に流れる。
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