第一章 苦境に落ちた家族と差し伸べられた助け

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 休み時間になると、拓人は教室から消えた。授業だけは出る。それ以外は給食を急いで食べると、人気(ひとけ)のない場所へと向かった。  不安が拓人を押し潰しそうだった。人の冷たい視線も怖いが、数か月もしないで彼の家族は住んでいるところを追われるのだ。それなのに、大宮家には行くところがない。  (一家心中とか……)  テレビで見たニュースが浮かんだ。生活苦から一家心中。見た時は流していたニュースが現実味を持って拓人に迫った。そうでないなら蒸発……行くところがないのだから現実的でない。大宮家にはほとんど金がない。逃げても生活はできそうになかった。  拓人は耐えた。好都合なことに、大きな学校行事のない時期だった。体育の時間だけ我慢して、それ以外は絶対教室にいない。  シニアリーグで野球をしていた拓人は部活動に入っていなかった。なので、帰りのHRが終わると、掃除以外の時は即座に帰宅する。そして家から出ない。  自宅は恐ろしいほど静かだった。  両親は、親戚からの途切れない罵声の電話に耐えられず、固定電話を解約していた。もう店はやっていないので必要なかった。電気や水道、ガスはかろうじて払っているから使えるが、少しでも節約しないとならない。
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