第一章 苦境に落ちた家族と差し伸べられた助け

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 父親の経営する店が危機になったのは一年ほど前だ。拓人の家では、地元業者のための小さな建設用品の販売店を営んでいた。  拓人の父親の店は、地元の建設業者がきちんと利用してくれて、決して裕福でないながら、それなりの生活は可能だった。しかし、一年前に、街の郊外に全国展開の量販店が進出すると状況は一変した。  ホームセンターだけでなく、業者向けの販売エリアも有していたのだ。そのコーナーは、一般客を排除して業者のみの販売。当然、拓人の父親の店など対抗できるとは思えない価格で商品を販売していた。  この時代、以前からの取引よりも価格優先になるのは仕方ない。今まで購入してくれた業者のほとんどが、量販店へと購入先を変更した。  品質が少々落ちても価格には変えられない。大宮(おおみや)建材店は在庫を抱えて経営が一気に苦しくなった。  打開するために、父親は銀行や親戚から資金を借りて、一般客向けの商品を販売しようとした。業態転換だ。子供向けの工作道具も揃えた。  地元の学校へも営業に行って父親は努力した。  だが、努力が結果に結びつくなら、そもそも失敗はない。量販店はホームセンターが主力。敵うわけがなかった。  現在、銀行への返済すら(とどこお)って、大宮家は生活の危機になっていた。
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