第一章 苦境に落ちた家族と差し伸べられた助け

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 大宮建材店は、銀行への返済が数か月滞納したのち閉店となった。実質倒産だ。銀行は担保の差し押さえを実行して、二か月後の退去を通告してきた。  だが、大宮家には行く場所がない。  父親の実家はすでになく、身を寄せることが不可能だった。しかも、親戚から借金を重ねている。返せと罵声を浴びせてくるのだから、頼るなどできるわけもない。  母方の親は、長男と同居でこちらも無理。しかも、母親は兄からも借り入れをしている。返済もしない妹家族を住まわせるほど、彼は親切な人間ではなかった。  このままならホームレス……拓人も事態の深刻さに野球を続けられなくなった。チームに払う金がないという事情もある。  「すいません、今日で辞めさせてもらいます」  チームの事務を担当している人に挨拶をすると、彼は面倒そうに頷いた。  「はい。道具は持って帰ってくださいね。次の人の邪魔になりますから」  拓人は唇を噛み締めて了承した。ロッカールームに行くと、沈黙が彼を迎えた。誰一人声を掛けてこない。静寂の中で拓人が道具を出す音だけが室内に響く。そのまま彼は大きなバッグを持ってロッカールームを出ていった。  彼の家の閉店は知られているので、引き留めもなく彼はチームを去った。あれだけ褒めてくれた監督やコーチも、最後は拓人を無視した。
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