2話―悪夢の始まり―

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2話―悪夢の始まり―

―――どうしよう、どうしよう、どうしよう…っ! 荒い呼吸を繰り返し、自宅マンションへと駆け込んだ柊は 玄関のドアをバタンッと乱暴に閉めると その場にズルズルとしゃがみ込み、両手で口を塞ぎながら 高校で目撃してしまった光景に激しい動揺を隠せないでいた… ―――ど、どうしようっ!!ま、まずは何処かに相談した方が―― 柊が慌てて着ていたコートのポケットからスマホを取り出し、画面をタップするが―― ―――相談て――何処に…? 暗い玄関先で、スマホの明かりを見ながら固まる柊… ―――こ…校長先生…とか―― “もしもし校長先生ですか?高校で緒方先生が女の人とセックスしてました。” 「……………」 ―――言える訳―――ないじゃん…っ!そんな事―― ハァ~…と柊は大きな溜息をつきながら スマホ片手にコツンと自身の膝の上におでこを乗せる ―――そもそも… 柊は学校で緒方に抱かれていた女性の顔を思い返す ―――あの女の人――誰…? 高校では見た事も無い女性の顔に柊が訝(いぶか)しむ ―――緒方先生の恋人――とか…?    だったら学校でセックスしていたとしても何も問題は無い――のか…? 冷静に考えれば倫理的に完全アウトな事案でも―― もはや疲れ切り、考えが上手く纏(まと)まら無くなってきた今の柊は “高校で会った女性は緒方の恋人”と無理矢理結論付ける事で 半ば強引に自身を納得させ、高校での出来事から目を逸(そ)らし始める… ―――大体……こんなのどうやって説明すればいい…?    緒方先生の相手がウチの女子生徒とかだったらなら大問題だけど――    相手は高校では見た事も無い女性…    しかも緒方先生の恋人かもしれないんでしょ…?    だったら――益々説明の仕様が無いじゃない…        それならいっそのこと―― もう柊の頭の中ではあの女性は完全に緒方の恋人という立場になっているらしく その上で柊は結論を出す ―――黙っていよう。 柊がまるで良い事を思い付いたかのようにパンッと自分の膝を叩くと ゆっくりとその場から立ち上る ―――そもそも“緒方先生が学校でセックスしてました。”なんて――    俺が周りに言った所で    “何言ってんの?柊先生…あの緒方先生に限ってそんな事ある訳ないないじゃないw”    って、一蹴されるだけだろうしな! 真面目で人周囲からの人望も厚く 誰からも信頼され、頼られている緒方の醜聞何てきっと誰も信じないだろう――と 柊は今日あった出来事に目を瞑り、口を閉ざす事を決める ―――あー…でも明日――なんて顔して緒方先生に会えば… はぁ~…と柊は今日何度目とも分から無い深い大きな溜息を吐きだすと 憂鬱な気持ちで暗い自宅廊下の壁に手を着きながら ヨロヨロと重い足取りでリビングに向かって歩きだした… 翌日―― 「――柊先生…」 「――ぅ、、お…緒方…先生…」 高校に出勤し 緒方となるべく顔を合わせたくなくて、教職員による打ち合わせの時間ギリギリになってから 誰にも気づかれぬよう、そ~っと職員室に入った柊だったが―― 職員室に入ると同時にその一番会いたく無かった緒方から早速声をかけられ 柊は思わず『げっ』と言いそうになったのを咄嗟に堪え ギギギギギ…と、まるでゼンマイ仕掛けのオモチャのようなぎこちない動作で 声をかけてきた緒方の方へと肩を竦(すく)めながら振り返る… 「な、なんでしょう…?」 「――今日、退勤時間になってから“2人きり”で話がしたいのですが――  よろしいですか?」 「う”……今日は…そのぉ~…」 「よろしいですか?」 「………はい…」 有無を言わさぬ緒方の迫力に気圧(けお)され 柊は思わず小さく了承の返事を返す 「それじゃあ――大体の職員が帰る20時頃、2-5の教室まで来てください。」 「2-5…」 「待ってますんで。それでは失礼します。」 「あ…」 緒方はそれだけ伝えると、足早に自分の席へと戻っていった… ―――2-5って――昨日緒方先生が女性と―― 昨日の事を思いだし、みるみる顔が青くなっていく柊 そこへ―― 「柊先生!なにボーっとしてるんですか?」 「――野崎先生…」 明るい茶色の髪にモスグリーンの瞳… 一見すると外国人モデルの様な出で立ちの若い男性――野崎が 固まってその場から動けずにいた柊に声を掛ける するとその声を聞き野崎の方を見た柊の顔を見て 野崎が慌てて柊に向かって駆け寄って来た 「大丈夫ですか!?柊先生――何か顔色が悪いですよ?!」 「だ、大丈夫です!野崎先生…あまり騒がないで…」 心配そうに近づいて来た野崎に 今度は自分の顔が徐々に熱くなって行くのを感じ 柊は慌てて野崎から顔を逸らす 「でも――アレ…?今度は何か赤く――まさか熱っ?!」 野崎は自分の目の前でみるみる赤くなっていく柊の両頬に両手を添え 俯いていた柊の顔を上向かせる 「ッ!?ちょっと何を――」 野崎の突然の行動に慌てふためく柊 しかし野崎はそんなのお構いなしに徐々に自分の顔を柊に近づけていき―― コツン ―――ッ!?!?!? 野崎が自分のおでこを柊のおでこに押し宛て、柊の熱の有無を確かめ始める 「おい、マジかアレw」 「今時恋人同士でも恥ずかしくてしねーぞあんなのww」 「柊先生顔真っ赤w可愛いww」 ザワつく教員達 「ん~…熱は無いみたいですねぇ……て――柊先生?」 「~~~~~ッ」 顔を真っ赤にし、プルプルと震えている柊 そこへガラッっと職員室の扉が開き、教頭が颯爽と姿を現す 「えー…それでは本日の打ち合わせを――って柊先生と野崎先生!  なにそんな所で突っ立って居るんですか!早く自分の席に着いて下さい!」 「あ…ス、スミマセン…!」 「今席に着きますっ!」 教頭からの一喝に、慌てて席に着く2人 「ったく…それでは本日の打ち合わせを――」 教職員による朝の打ち合わせが 教頭の不機嫌な声と共に静かに始まった―― 多少のごたごたはあったものの その日一日の日程は滞(とどこお)りなく進み 教職員達が皆、帰路についた頃 柊は一人、緒方との約束の時間に2-5の教室を目指し 重い足取りで廊下を歩く… ―――話ってやっぱり――昨日の事…だよなぁ… 「ハァ~…」と、柊の口から出るのはもはや溜息ばかり… ―――と、兎に角!此処は穏便に話を済ませて    何とか緒方先生の誤解を解かないと… 昨日の事はわざとでは無かったんです――とか… 決して見ようと思って見たしまったわけではないんです――とか… 廊下を歩きながら緒方への言いわけを必死で考える柊… そうこうしているうちに2-5の教室へと辿り着いてしまい 柊が緊張の面持ちで教室のドアを恐る恐る開けていく… 「し……しつれいしまぁ~す…」 柊がキョロキョロと教室の中を見回しながら中へと入る すると教室の後ろの方で佇んでいる緒方の姿が見え 柊はゆっくりと緒方の方へと近づきながら緒方へ声を掛ける 「お……緒方…先生…?」 「――柊先生…来てくれましたか…」 柊の声を聞き、緒方がゆっくりと柊の方を振り返る 「は…話っていうのはやっぱり――昨日の事、ですよね…?」 「まあ…そうなんですけど――」 ―――やっぱり… 「あ、あのっ、緒方先生っ!俺、昨日の事は誰にも言いませんっ!だから――」 「柊先生…」 緒方が柊に何か言いかけたその時 ガラッと教室の扉が開き、石川がのそっと中に入ってきた… 「え…石川さ――」 「柊先生。」 「は、はいっ!」 石川が教室に入ってきた事に動揺を隠せないに柊に 緒方が声をかけ、柊が慌てて返事を返す 「俺――“口約束”って信じちゃいないんですよねぇ…」 「え…」 緒方が今まで誰にも見せた事も無い様な薄い笑みを浮かべながら柊に近づき始め 柊はそんな緒方の笑みと、何処か狂気のようなモノを纏った緒方の雰囲気に恐怖を感じ 緒方から距離を取るように後ずさる… 「お…緒方先生…?」 「ですから――」 柊が徐々に自分に迫って来る緒方に怯え そのまま後ろへと下がり続ける… しかしそのうちドンッと柊の背中が壁にぶつかり 逃げ場を無くした柊が、青ざめながら直ぐ目の前に立つ緒方に向けて 許しを請うような表情でその顔を見上げるが―― ドンッ! 「ひぃっ、」 緒方の両手が 怯える柊の顔のすぐ横を掠め、後ろの壁に勢いよく着くと 緒方はギュッと瞳を閉じ、今ので完全に委縮してしまっている柊の耳元に 自分の唇を寄せ、小さな声で柊に向かって囁いた… 「貴方に――“誰にも言わない”っていう“約束”を守ってもらう為に  此処は一つ――行動で示してもらおうかな…と――」 「こ……行動って――一体何を――」 柊の言葉に、緒方の口角がニッと上がる 「石川さん、カメラの準備は?」 「――出来てます。」 「そう…なら――」 緒方は柊のスーツのネクタイに手をかけると、スルスルと外していく… 「ちょ…っ!緒方先生何を――」 突然自分のネクタイを外し始めた緒方に驚き、柊が両手で緒方の手を掴んで 止めさせようと抵抗する 「何って――“行動で示してもらう”んですよ。  ――石川さん…ちょっとコイツの両手邪魔なんで――押えててくれる?」 「分かりました。」 石川のゴツゴツとした手が、暴れる柊の細い両手首を押えつけ 柊の両手の自由を奪う… 「え……え…?  ちょっと嫌だ…っ!離してっ!離してったらっ!!」 柊は身を捩って暴れるが、石川の柊の手首を掴む手はビクともせず… そうこうしているうちに緒方は柊のワイシャツのボタンを全部外し終わり 緒方の冷たい手が、シャツが肌蹴、無防備に晒されている柊の横腹にソっと触れる… 「ひっ、冷たっ!お、緒方先生…っ!ホントに一体何をする気で――」 緒方の行動が分からず、柊はただただ困惑する 「ここまでされて――  本気でこれから何されるかが“まだ”分から無いんですか?w」 「――え…」 緒方が耐えきれずにとうとうクスクスと笑いだす 「昨日の女性と“同じ事”を――貴方にもするんですよ…  もっとも貴方の場合は“商品”としてでは無く――  “黙らせる為”ですけどね…」 柊の肌を撫でていた緒方は、次に茫然としている柊のズボンを脱がしにかかる… 「楽しませて下さいよ?w柊せんせ…」 ニッコリと優しく微笑む緒方に対し 柊は緒方の言葉に混乱して何も言えず… ズボンを脱がされているにも関わらず、その場に固まったまま動けずにいた――                    To be continued.
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