プロローグ

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物を「固定」する能力。 その特殊な能力が少女の体にのみ暴走しており、彼女の体は臓器の動きも固定され、体も成長せず、なぜ少女の体が動いているのか誰も分からなかった。 能力を使うことだけは暴走していないので、能力はコントロールできる。 少女は、医師に言われるがまま、能力を使って見せた。 近くにあった熊のぬいぐるみが、何にも触れず、空中に浮きあがり、天井近くで停止したまま、実に5時間32分もの間、浮遊していた。実験では、さらに重い陶器などのものが使用された。これも、4時間近く持ち上げられていた。 その後、少女は「疲れた」と言い、すべて床に落とした。床に叩きつけられた陶器がガチャンガチャンと凄惨な音を立てて割れていった。 専属の医師が、家族関係を調べたところ、少女の父親は、薬漬けの生活を送り、少女が生まれる前に他界したという。 医師は、麻薬の影響で、「DNA情報がゆがんでしまったのではないか」と考えた。 もちろん、麻薬により、特殊能力に目覚めたという前例はない。 医師は、このバカげた仮定を調べ上げた。 結果、ギゼラルに、DNA情報がゆがみ、特殊能力に目覚める可能性の高い、有毒性の成分が含まれていることが分かった。 だが、世界政府は、この危険なドラッグの真の姿を隠蔽した。出所の分からない何もかも謎の危険なドラッグの責任を負うことを恐れたのだ。  その頃からか、特殊能力に目覚める人間が増え始めた。 政府が自分たちのしたことの愚かさに気づいた時には、ギゼラルの能力を使った犯罪が横行し、能力を持った人の割合は、3割を超えていた。 彼らの眼は、血で染まったかのように、鮮烈な赤色になっていた。――― ・・・2070年、ギゼラルの流通が何者かによって止められた。 もともと出どころの分からない麻薬なのだから、流通しなくなることは、不思議ではない。 薬厨や、ギゼラルを流し、巨万の富を得ていた者、ギゼラルを根絶やしにしようとしていた政府など、多くの人々が、様々な情報屋を使って探し回ったが、一切手掛かりは掴めなかった。世界の統計によると、この年が自殺者が最も多い年だったらしい。 ・・・2200年、日本、都市部に住む、約1割、裏町、約3割の人間が能力持ちとなった。能力を持った人たちは、祖先がギゼラルを使っていた薬厨の危険な人物なのに対し、意外と、世間になじんでいた。能力を持っているものにあこがれるものまでいた。 ある日、都内の中高生を狙った同時誘拐事件が起こった。 犯人は、一切連絡をよこさず、警察は、手掛かりをつかめないまま、時は過ぎていった。 それから数日後、近くの山で、13もの死体が発見された。 そのうち、11体は、赤い目をしている。 頭髪を、血液を、体液を、骨を、歯を、爪を、 すべて抜かれ、見るも無残な状態で、恐怖に顔をゆがめたまま、埋めようともされず、冬の朝霧にさらされ、痛いほど冷たく硬直していた。 まるで、「もう用はない」と何らかの事を終え、警察に見つかることすらも、もはやどうでもいいかのような乱雑っぷりだった。 残り2体は、心臓にナイフを一突きで、死んでいた。 他の死体と比べ、この2体だけ何もされていない。犯人がいたぶるのに飽きたのか、見つかりそうになり、慌てて山に放置したのか、真相は謎のまま。 ただ、この2体には、共通点があった。 赤色のコンタクトレンズをしていたのだ。
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