強面兵団長と、癒しのハーブティー

2/8
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 地方における最大の問題は、流通だろう。これには、情報も含まれる。  都から離れれば離れるほど、それらは形を変えてしまう。人を介したぶんだけ、内容が変わっていくのだ。  こうした情報の差異は、逆にも作用する。  地方の噂が美化されて都に届き、いざ現地へ向かってみると、噂ほどではなくて落胆するという現象がそれだ。  今回オルタ兵団がカースへ赴くにあたり、真偽を確かめたいと思っていたことのひとつに、『癒し手』の存在がある。  癒し手とはその名のとおり、癒しの力を身に宿している人々のことだ。  技術をもって患者を治す医師とは違い、彼らは不思議な力を使う。  傷を癒す奇跡の力は、戦いを生業とする者には崇められているのは言うまでもないだろう。  癒し手の数は減少しており、奇跡の力にあずかるためには、彼らのもとへ赴く必要がある。しかし、治療を必要とするような者が長距離を移動するのは難しく、またなんとか辿り着いたとしても、順番を待つ必要があったりという問題もある。  地方にいる癒し手は貴重といわれる所以(ゆえん)だ。  癒し手は男女問わず存在するが、カースにいる癒し手は女性だという。  癒しの力とは無縁だった地に現れた天使の存在は、王都でもいっとき話題になった。今回その地に派遣されることになったオルタ兵団は、喜びの声をあげたものである。  だがその時、果たして噂は本当なのだろうかという議題が浮上した。  天使などというから若い娘を想像しているが、果たしてそうだろうか。  現役を引退した老婆が、余生を過ごすために地方へ移り住み、そのさなかに戦乱が起こったため、老体に鞭をうって働いている可能性も否定できないではないか、ということである。  バカバカしい――と、グスタフは思った。  清らかな天使に会いたいなどと騒いでいる者の大半が、彼女持ちである。それとこれとは別だと彼らはいうが、それは相手に失礼だろう。  なお、女性は大切にするべきだと思うグスタフ自身には、そういった相手はいない。  世間一般的に見て、グスタフ・ガルンストは熊だった。  立派な体躯、いかつい筋肉。上背もあり威圧感がある。団長という職についているため、部下を叱責することも多いのだが、その声がまた雷のごとく大きく鋭い。無関係の通行人が半泣きになったぐらいだ。  口数は多いほうではなく、その状態でじっと相手を見据えるものだから、敵でなくとも降参したくなるだろう。  捕虜の口を割らせるために、あいつを立たせておけばよい。  入団した十四歳の頃から、グスタフは無言で威圧することが得意だったし、むしろそれを推奨されていた。なかば癖のようになっており、戦場での勇姿と合わさってつけられた通り名が「化け物」である。  泣く子がさらに悲鳴をあげる、化け物団長・グスタフの名前は有名で、そんな恐ろしい男に嫁ぎたいなどという女性は誰ひとりおらず。二十六歳になってなお、独り身を謳歌している真っ最中だ。  たぶん一生満喫するはずだと、本人は思っている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!