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カースの治療院は、孤児院を兼ねた教会に併設されていた。
これはどこの町でも同様で、医師と癒し手がまったく別の存在であることの証だろう。
癒しの力は、古くは魔力と称されていた、今は廃れてしまった力の名残で、保護の対象でもある。一部の特権階級が利用しないよう、国が目を光らせている状態だ。
カースの癒し手もまた、どんな人物であるか調べておかなければなるまい。
広場でマグル討伐の報告とともに、その肉を提供する。
有志による炊き出しがおこなわれており、早速そちらにまわされた。
兵士たちは各人が手伝いに入り、それらを見送ったのち、グスタフは教会を訪ねた。
教会主は禿頭を下げ、王都からやってきた兵団長を歓迎する。
孤児院に案内しようとする手を制止し、グスタフは癒し手のことについて訊ねた。そんな場所へ顔を出せば、子供たちが泣き叫び、阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。
教会主は、グスタフを反対方向へ導いた。
ついていくと、教会の裏にまわる。そこには畑が広がっており、畝が並んでいた。
まわりこむようにして進んでいくと、農具を保管しているとおぼしき小屋がある。雨風に耐えうるようにか、石とレンガで作られており、傍には井戸もあるようだ。
教会主はその小屋へ向かうと、おもむろに扉を叩いた。
「アーネ、客人だ」
中から物音がし、ギイと軋んだ音を立てて扉が開く。
「どなたがお怪我を……」
「そうではない、都からいらっしゃった御方が、おまえに訊きたいことがあるそうだ」
「都から?」
姿を見せた相手は、フードを被った小柄な人物だった。声からして若い女性だとは思うが、それもさだかではない。
「君が、カースの癒し手か?」
「……あ、はい。たぶん」
「たぶん?」
「我が町にいる癒し手は、この者で間違いはございません」
答えたのは、教会主のほうだった。
フードの人物はただ黙って立っており、前を向いているのか下を向いているのかもわからない。
そのまま語りはじめる教会主を制止し、退去を願う。
周囲の声も大切な情報ではあるけれど、それらは兵士たちが住民から聞き出す手筈になっている。癒しを受けた療養者へも、炊き出しを提供しながら接触しているはずだ。
グスタフの仕事は、癒し手本人への聞き取りだった。
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