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渋々ながら去っていく教会主の背中を見送ったあと、グスタフはあらためて目前の人物を見下ろした。
己の胸元あたりにある頭は小さく、フードの布が余っている。
ローブの裾も地につき、ところどころがほつれている。全体的に、丈が合っていないらしい。
「どこか落ち着いて話をできる場所はあるだろうか」
「でしたら、中へ」
促されて覗いた先は、納屋ではなく生活空間だった。
椅子と机があるほかには、天井から下げられたランプがある程度。
片側の壁には棚が設えられており、書物や箱、畳まれた布など、「部屋にあるものを全部置いてます」といったふうになっており、グスタフはさりげなく目を逸らす。
癒し手はといえば、簡易的な竈にかけてあった薬缶を取ると、カップに注いでいる。
着席したグスタフの前に提供された茶は、若草色をしていた。
「これは……?」
「すみません。自家製のハーブティーで、あの、これしかなくて、本当にすみません」
見慣れない色合いに首を傾げるグスタフに、相手はバタバタと頭を下げはじめた。
その動作に、フードがさらに乱れる。
あまりの勢いに、グスタフは慌てて声をかけた。
「いや、こちらこそすまない。とてもよい香りがしたものだから、どんなものか気になっただけなのだ」
「よい香り、ですか?」
「頂いてもよろしいか」
「あ、はい、えと、どうぞ」
新緑の中にいるような香りが、鼻先をくすぐる。
口に含むとほのかに甘く、けれど爽やかなあとくちで、非常に飲みやすい。
癒し手は、薬師を兼ねている者もいるというが、彼女もまた、そのたぐいなのかもしれない。
――しかし、良い味わいだ。自家製と言っていたか。種類と配合を教えてもらうことは可能なのだろうか。いや、しかしもしもこれが秘蔵のものであったとするならば、門外不出ということに。
厳つい顔のグスタフであるが、彼はハーブティーの愛好家なのだ。殺伐とした日々の仕事を癒してくれるそれらを、こよなく愛している。
国内で流通している一通りの茶葉は知っているつもりだったが、そのどれとも違う味わいに舌は喜び、感動が身体中に広がる。
なんとかこれを我が物にできないものだろうか。
ううむと唸ってしまったところ、目前の人物がビクリと震えた。
俯いているのかフードが垂れており、ますます顔が判然としない。かすかに震えているようにも見え、グスタフは嘆息した。
相手はおそらくは女性。
であれば、化け物たる自分を恐れるのは仕方がないことだ。
とはいえ、仕事はこなさねばならず、グスタフはできるだけ穏やかに聞こえるように祈りながら、口を開いた。
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