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「ハニー!」
どのくらいゆらゆらしたもんだか、夫の声がした。ふと声の方を見る。いつになく険しい表情をしていた。
「え、どした」
仕事で何かあったんだろうか。すると途端に天才くんが俺の腰から手を離した。完全に動揺している、怯えている表情だった。
「どうしたんだよ」
ふたりとも、と声をかけるより先に、すごい勢いで巨体を揺らしてかけてきた夫が、俺の腕を引っ張って胸の中におさめた。
「ちょっ!」
びっくりしてうまく声が出ない。
「大丈夫かっ?」
彼は心底心配そうに、俺のことを見つめてくる。
「大丈夫って?」
完全になんのことかわからなくて、呆然として夫の顔を眺める。大丈夫もなにも、ただダンスの相手をしてやっただけで何にもなかったんだけど。
彼は頭から爪先まで見て、また強く抱きしめてきた。
「苦しいって!バカやめろっ!」
「バカはハニーのほうだっ、俺を心配させないでくれ……」
心配って大袈裟な。周りにいたみんなもこっちを見ている。
「ちょっとー、新婚さんたち、今はハグする曲じゃないよ!」
誰かのいじりが飛んでくる。けど彼はハグをやめない。無理矢理振り解いて、今度は彼の腕を掴んだ。
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