標識表示街

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勝負開始から20分が経過していた リリーは小細工がレティには通用しない事を悟り 相手の動きを見ずに手を出すようになった せっかく軌道(きどう)に乗りかけていたが 仕方ない… ここからは運否天賦(うんぷてんぷ)の勝負 日頃の行いが出そうだ 「じゃーんけーんほいっ!」 運悪く負けてしまうレティ あぁ…ちくしょう… それを見てリリーはニタニタと笑う 「そろそろ、とどめといきますかぁ…」 は? 彼女は着用している装備のポケットに手を突っ込んだ 「なっ、何?」 「擬似技能(サブスキル)発動…」 サブスキルだぁ? 「へ?ちょっと!魔法は使えないんでしょ?」 「魔法じゃないよぉ?…持ってる物を使うだけぇ…あはははっ」 彼女はポケットからサイコロを取り出した 「何?サイコロ?」 「うん、これで~…」 リリーは足元にサイコロを落とした 「5かぁ…うんうん…いいね、いいねぇ~」 「えっ?どういう…」 「これで殴る回数決めんのよ」 彼女は目の光が消えていた 人の目をしていない… 例えるなら(サメ)のような目によく似ていた そんな彼女の真顔に背筋が寒くなる 明らかに今までのリリーではなくなっていた 「さらに、擬似武装(サブウエポン)発動」 は?…サブウエポン? 彼女は背中に隠してある 収縮式鉄棍棒(てつこんぼう)を取り出した 初めは(こぶし)二つ分くらいのコンパクトな鉄の円柱だったが リリーが身体の周りでうまいことクルクルと回すと、その円柱が(やり)のような長い鋼鉄の棒へと変化した 武器……へっ?これで五発やられるの? 「えっ…あっ…まじで?うそでしょ?…」 ルールもへったくれもない ぶっ飛んでる… 「いや、嘘じゃねぇよ?」 何事もないように、リリーは大きく振りかぶった 私はじゃんけんで負けた 動けない! 思いっきり振った鋼鉄の棒がレティの右横腹にぶち当たり深くめり込んだ メシャメシャメシャ…… 鈍い音が空間内に響く はがっ……うっ…くっ……… 意識が飛びそうになるのを必死に(こら)えた 強く歯を噛みしめて いっいぃぃぃぃ…… 身体から汗が噴き出す…想像を絶する痛みが彼女の中を駆け巡った 「二発目」 さっきとは逆回しに身体を体転させてレティの左横腹に大きくしならせて当てた メキメキメキっとレティの身体から骨の砕ける音が鳴る レティの肋骨はすでにボロボロだ アがぁうっ……ぅぅう……… 意識…意識を保たないと なんか……痛みって言うより ……痛みを通り越して… …… レティは気の遠くなる自分に 死の予感を感じていた このままじゃ……マジで…()ってしまう… そんな瀕死の状態のレティに容赦なく 全力の追撃が浴びせられた 「三発目」 右腕 メキメキメキッ 「四発目」 左足 ミシミシッ 「あっはっははは~、五発目ー」 右腰 ゴシャッ レティはその場にフラフラと座り込んでしまった 汗でびっしょりと濡れて、身体中が痙攣を起こしている 「あらぁ~?立てないの?」 はぁ…とため息をこぼすリリー 「じゃあ、あなたもう終わりね」 彼女は「つまんなーい」と口を尖らせた 「…………」 「言ってなかったけど、続行不能と判断されたら強制終了だから」 ……終了……? 「この空間に魂を吸いとられる仕組みになってるのぉ~♪素敵でしょ?ひゃはは、終わりかぁー」 「…………」 終わり……? ふざけんな… こんな不正行為を見せつけられた上に でかいの五発も打ち込みやがって…… 黙って死んでられるか… レティは片ヒザを立て、そこに手をついてゆっくりと身体を起こしていく ギシギシと身体が悲鳴をあげる すでに身体は限界を通り越していた くっ…う…ぅぅうううう…おおおあぁぁ!! 「あれ?立つの?立っちゃうの?もうやめた方がいいんじゃないのぉ?」 「はぁ…はぁ……まだまだぁ」 フラフラのガクガク状態だが、レティは何とか立ち上がった …しぶとい野郎だ もう、生まれたての小鹿(こじか)みたいじゃない…マジ笑える 「あははは…あんた、ドMなの?まぁ、いいけどさぁ。じゃあ次行こうか」 「待って!」 レティは手をあげて止めた 「何?降参は認めないけど…」 「汗…拭かせてよ…」 彼女の声にもう覇気は残っていない あはっ、こいつ次で終わりかなー 「はいはいご自由に、くそ雑魚さん、さっさとしてねー」 リリーは圧倒的な優越感に浸っていた 圧倒、圧巻、完封、完璧 まるで自分が雲の上にいるようだ 今の置かれた状況が非常に心地よかった レティは身体中に走る激痛のせいで全身が汗だくになっている 顔からも汗が滴り、目に入って痛みを伴なって視界を奪っていた 手持ちの袋からハンカチを取り出し、顔を丁寧に拭う 汗を拭った後の彼女の表情は冷静さを取り戻しつつあった ハンカチを綺麗に折りこんで元の位置に戻し、ゆっくりと深呼吸をする ふぅ… 彼女の乱れていた呼吸は治まって、今は落ち着いていた 「ねぇ…」 「ん?なに?」 「サイコロなんて……使っていいわけ?」 「まぁね」 「その鉄の棒も…このゲームで使用していいんだっけ?」 「そりぁね…出てきちゃったものはしょーがないじゃない?ねぇ~?魔法は使ってないんだからいいに決まってるじゃん。ばーか」 リリーは笑顔が止まらない この空間は彼女の決めたルールで動いている 言わば都合のいい狩猟場(しゅりょうじょう)だ 「そっか…」 めちゃくちゃだ… かなりぶっ飛んでる このイカれた空間の中で 私が生き残る道は… じゃんけんで勝つ事…それしかない 勝たなければ…今のこの状態ならすぐに死んでしまうだろう 「ねぇ、もういいかしら?次の勝負にいきたいんだけど…それともまだ時間稼ぎする?」 くそ… 楽しそうにしやがって 「ああ、いいよ…やろうか」 神様…
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