標識表示街

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カレンはレティの元に歩み寄り、片膝をついた そしてレティの頬を指で軽く(つま)まんで横に(ゆる)~く引っ張った 「寝るな~」 「ぅぃひぃ~ん…にゃめろぉ~…」 彼女が目を開けたので摘まんだ指を離す 「あれほど行くなって言ったのに…」 「しょーがないじゃん…隠しステージなんて言われたらさぁ…」 「行くなら行くで、ボクに一声かけてくれてもよかったんじゃないの?」 彼女はこのクエストでカレンと同等もしくは、それ以上の成り上がりを目指していた (ゆえ)にカレンを誘う気持ちは一欠片(ひとかけら)も無い レティは舌を横に出して 「てへぺろっ」とぶりっ子を気取っている それを見てカレンはため息をついた 感のいい彼女の事だ レティの様子を見てすぐに理解したようだ 「とにかく…無事で何よりだよ、レティ」 「うん…ありがとね、カレン」 そして彼女はカレンの(そで)をくいっと摘まんだ 「ねぇ」 「ん?」 「まだ…敵がいる」 「うん、さっき二人から聞いたよ」 それなら話は早い 「とりあえず確認した分だけであと三人…全員上位ランカーだった」 「うん」 「…任せてもいい?」 「ああ、いいよ」 カレンの二つ返事にレティは微笑んだ 彼女が来てくれて良かった… 奴らは今もなお、この洞窟で生き残っている者を隅々に渡って狩り獲っているはずだ…急いで止めないと 「被害が大きくなる前に、頼んだ」 「オッケー…」 そう言ってカレンはレティに付き添っている姉妹に視線を向けた 「彼女の事、よろしくお願いします」 「「はい!」」 「もう!私の事はいいってば!早く行って」 「……彼女の頑固な所も治癒魔法で何とかなりませんか?」 「うるさい!早く行け!」 カレンはにこりと笑って身体を(ひるがえ)し、別の入り口へと走って行った 「ったく…」 その様子を見てルルアがクスッと笑った 「仲いいんですね」 「え!?べ、別に普通だよ!普通」 「でもいいんですか?一人で行かせちゃって…三人共上位ランカーですよ」 「大丈夫、大丈夫。カレンは秘術を持ってるから」 「秘術?」 「うん…空間を操作する技。三人を早急に見つけるのもそう難しくはないはず」 「空間操作…ですか」 「そそ、イメージ付かないと思うけどね」 【裏手口(リミテッドトリガー)】 彼女の取って置きの技だ ノエル、マリン、アスラの三人は生き残りの獲物を探し回っていた 洞窟内を走り回って探索中 どこへ行っても見つかるのは焼け焦げて転がる死体ばかり 「なぁ、全員焼け死んでるんじゃない?」 「いや、それにしては死体が少ない…どこかに隠れてる可能性がある…隈無(くまな)く探して息の根を止める」 「は~あ、アスラはほんとに抜け目ないよね~、そこがいいんだけどぉ~」 現在いるフロアにも生存者はいない 三人は別の階に登り、移動した 移動先の部屋も同様に焦げた死体があちこちに転がっている だが、その先で人が一人、ぽつんと立っていた 「おっ、生存者、発けーん!!」 隠れる素振りも見せず 三人を見つめている 「いや……生存者って感じじゃなさそうだな、ありゃ」 「そうね」 「やっと見つけた」 カレンが三人の前に立ち塞がる 「見つけた?面白い事言うね、お嬢ちゃん」 「ホントにねー。誰こいつ?」 「…カレン・ウィロー」 「知ってんの?……アスラ…何でそんなに嬉しそうなの?」 アスラは口が自然とつり上がっていた 「これは大物…こんな所で()りあえるとは、ラッキーね」 「へぇー、そうなん?カレン…カレン……んー、聞いた事はあるけどぉ…んー」 マリンは(あご)に手を当てて考え始めた 別に思い出してもらわなくてもいいのだが… 「大物って事は、結構な実力者なわけ?」 「ああ、強いよあれは」 「あっそう…使う魔法は?」 「炎の(たぐ)い」 「ふーん…アスラと一緒か」 一撃の威力は高いが 魔法の発動には時間かかる炎系 だったら発動前にぶちのめせばいいよね… それに今の装備は炎耐性 マジで楽な仕事だ… ノエルはカレンに視線を向けた 「おいっ、お前。何しにここへ来た?」 「…ちょっと友達を探しに」 「友達?」 「レティだ」 「レティ?こいつさっきの奴の連れか?」 「そう…大体二人セットでいつも行動している…しかし、まさかこんな形で彼女が釣れるとは…ありがたいな」 そんなにか どんだけ殺したいんだ… 「わりぃけど、その友達とやらはアタシたちの仲間が始末しに行ったから、今頃三途の川でも渡ってるかもしれねーな」 それを聞いてカレンはフフっと笑った 「ボクの連れはそんなに弱くないんだぜ?」 ふーん、なるほど こいつは何も知らないしな 彼女に負傷者と戦力外の二人がついている事を 呑気(のんき)に笑っておめでたい野郎だ… 世の中そんなにあまくないっての… 「君ら…魔導師狩りをやってるみたいだけど、もうそんな事は今すぐやめて、さっさと自首してくれないかなぁ」 その発言にノエルの目は点になった あのあんぽんたん何言ってんだ? 三対一の この状況で… 気でも狂ったか 「嫌だと言ったら?」 「ここで消えてもらう…」 ネタだなこりゃ… おもしれーわ、こいつ 座布団がありゃ、一枚くらい渡してやるのによ… 「だってよ…マリン」 「あー、もう!カレンって誰か分かんないわ!とにかく殺すねー」 マリンがカレンに向かって駆け出した 「おい!マリン!抜け駆けすんな!」 それにノエルも続いた アスラはその場で動かない 「おっと…君たちいきなりだな…」 マリンは両手に鉄甲鈎(てっこうかぎ)、ノエルは大刃鉄扇(おおばてっせん)を持って連続で振りかざしてきた 彼女達の武器は勢いよく空を切る カレンは相手の軌道を読んで、全てかわした 二人の攻撃は鋭くて早いが避けられなくはない まぁ、当たれば絶叫ものだが… さすがは上位の実力者 威力の高い武器を持っている それに… 装備を見る限り炎耐性 厄介なものだ… 「ひゅう!中々やるじゃーん」 「ああ、だがいつまで持つか」 避けたり、いなしたりで徐々に後退し、壁が接近してきた 「おーい、コーナー近づいてんぞ?黒髪」 「そっか…だったらっ」 上だ その場を離れるため カレンは上にジャンプして跳んだ 「はいはい~♪、うまいことかかってくれちゃって~」 「(まと)も同然だな」 ノエルとマリンの手には杭やナイフが数十本握られていた こいつはヤバイな… 「ほら、受け取れ」 「たぁんと召し上がれ~♪」 杭とナイフは全て滞空中(たいくうちゅう)のカレンに放たれた その瞬間に カレンはポケットから煙玉を取り出し その場で煙幕を発生させて二人の視界を奪った 裏手口(リミテッドトリガー) 「はぁ?」 ばっかじゃないの? 投げた後に煙幕なんて…プークスクス マジで後の祭りなんですけどぉ~ (はじ)いた音さえ聞こえない しかし、杭やナイフが地面に落ちた音も一切しない 「あ?」 ノエルは扇で風を起こして煙幕を吹き飛ばした だが、その先にカレンの姿はない それに地面にはナイフ等も落ちていない 「あれ?杭とナイフは?」 「……」 「お嬢さん方」 声は横からだった 「探し物はこれかなぁ」 カレンが手に、ナイフと杭を数十本持っていた ゆっくりと指を開いて下にバラバラと落としていく フロア内に金属音が鳴り響いた
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