標識表示街

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外禁中のカレンは家でだらだらと過ごしていた 外禁=街の外に出られない つまりダンジョン禁止 ランクも上がらないし、稼げもしないのだ カレンは図書館で借りてきた何十冊もの本を横に積んで、読み更けっていた 外禁になったら暇でしょうがない と、なれば 本を読むしかないでしょう この沈んだ気持ちを慰めてくれるのは(きみたち)しかいない そして読書のお供に欠かせないのが… このコーヒーだ この香ばしい香りがなんとも… 彼女はカップを手にとり一口すすった 濃厚な香りとほんのりとした苦みが口の中に広がる そしてゆったりとした時間が流れる いやぁ…悪くない 「よっ、外禁少女!」 突然家の窓からクラスメートのレティが声をかけてきた 「ボクは悪くない」 「いーや、悪いさ。街中で魔法使ったんだろ?そりゃ悪いだろ。死刑だよ、死刑。というか死んで下さい、お願いします」 なんて奴だ… 「ボクは街の治安維持に貢献しただけだよ。何が死刑だ。けしからん」 それを聞いてクスクス笑うレティ 「カレンも法を破ってんだ。治安維持もくそもないよねぇ。治安荒らしの間違いだろ?法が全てだよ?カ・レ・ン」 (オコー)… 「なら、その法が間違ってるよ」 「ほぉお…」 レティは興味深そうに、窓の縁に両腕をついた 「相手は加速魔法を使ってたんだ。こちらも使わずして彼を止めることができたと思うかい?」 「いんや、思わない」 「でしょ?じゃあボクは間違ってないじゃないかぁ」 彼女はクスクス笑って、最後に大きなため息を一つ付いた 「大間違いだよ。まったく…正解は見てみぬふりをすることぉー。彼を止める必要がどこにあるんだい?」 「なっ」 「他人がどうなろーが知った事じゃない。結局は自分が得する道か、助かる道しか選ばないのさ」 「君はそうすればいい。ボクはボクのやりたいようにやる」 「はぁ…もっとうまく生きなよぉ~、カレン。じゃないと置いてかれちゃうよ?私だけ先に行っちゃうけどいいの?ま、どうでもいいけどねぇ~。じゃあねぇ~」 そう言って、楽しそうに彼女は帰って行った くっ… 勝手にどこへでも行ってしまえ というか 何しに来たんだあいつ… ただの冷やかしか?くっ… 『もっとうまく生きなよぉ~』 レティの言葉が頭によぎる うまく生きる…かぁ ボクは下手くそなんだろうか… 間違ってるのかな カレンはため息をついて再び本に視線を移す 考えても嫌な気持ちになるだけなので、考えない事にしたのだ 何も考えずに本の世界に入り込む そう、これこそが今のボクにとって一番の至福なのだ そこからはゆったりとした静寂が続く ページのめくる音と時計の針が時を刻む音しか聞こえない程の優しい空間 静かで平和な時間がやってきた 「はぁ…面白かった。これ早く続き出ないかな…ん?」 気がつくと夕方になっていた 窓からオレンジ色の光が射し込んでいるのを見て「はっ」となる 時計を確認すると17時を過ぎていた 「夕飯…」 全く考えていなかった 考えないようにしていたのもあったので とりあえず冷蔵庫の中身をチェックせねば 冷蔵庫の中は牛乳とチーズ、ヨーグルト…どれも乳製品ばかり 「ダメだこりゃ…」 お腹くだしちゃうよ… 買い物行くかなぁ 財布、携帯、身分証よし ボクは白のテーラーコートを羽織って家から出た 街の中なら出歩いても問題ないし、大丈夫だ それにしても… 外に出ると相変わらず標識が多い この経路案内標識も多すぎだって… どれを見ていいかわかんないから 逆に迷うのではないだろうか ボクは標識を頼らず、記憶を頼りに道を進んだ 空は蒼と赤の混じり合った紫へと変色し夜に向かおうとしている ボクの足元の影が夜になるにつれ、不気味に大きく伸びていった 本当に異様な雰囲気を漂わせる街だなぁ それはさて置き、今日は何を作ろうか んー…今の気分は… 「…カレーかな。よし、カレーにしよう」 「えー…手抜きじゃーん。小学生の調理実習かよぉ…」 「ひどいなぁ…カレー美味しいじゃん。カレーをみくびるんじゃない…って、レティ!?」 レティが目の前に突っ立っていた 彼女の体は傷だらけで 装備は潰れ、引き裂かれボロボロになっている 「なっ…どうしたの、それ!?」 「いやー、ダンジョン失敗しまくっちゃってさぁ…挙げ句の果てには一文無しになっちゃって…あっははは」 全く笑い事ではない 先に行っちゃうとか言っておいて めちゃくちゃ劣化しちゃってるよ…君 3歩進んで5歩くらい下がってませんか? 「カレ~ン…お腹空いたー」 全くこの子は… 「カレーで文句ないよね?」 「ちっ、やっぱカレーかよぉ、たくよぉ…これだから小学生はぁ…」 「よし…一人で食うかぁ」 「きゃっほー!!カレー大好きぃー!カレンも好きだよ♪l love you~♪さっ、行こ行こ!鞄持とうか?」 調子のいい奴…やれやれ… 路上に伸びる大きな影が二つに増えた
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