標識表示街

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至るところに標識が立ち並ぶ 意味があるのか怪しい物も多々並んでいるが… そこは触れないでおこう カレンは標識表示街に帰って来た この変わった風景、とても久々な気がする 「さてと…今日は何をしようか」 相棒は病院送りになっちゃったし…ここ数週間は一人での行動となる事だろう 「とりあえず、集会所に出向こうかな~」 カレンは集会所に向けて歩き始めた あの洞窟での一戦で、ボクもそれなりにダメージを受けたけど 特に深刻な物ではなく、少し時間が経てばいつも通りに戻る事ができた それに対して長期入院のレティは横でブゥー、ブゥー言ってたけど… 相棒なら友達の回復を喜ぶのが普通だと思うけどね 本当に彼女はひねくれてるからなぁ 『こぉらー、カレン!抜けがけは許さんぞぉ~!!』 今思い出しても笑いが込み上げてくる どっかの刑事みたいなセリフだ というか…抜けがけしようとしたのはそっちじゃないか ホントめちゃくちゃだな… クスクス笑いながら歩を進ませるカレン ん? 集会所に向かう途中に温泉マークの付いた標識を見つけた 温泉…こんな所に… へぇ~、いいな… 仕事終わりにでも寄っていこう 目標もできて、モチベーションが上がったカレン ー集会所ー 周囲を見回すと新顔ばかり 以前、ここで勤務していた人員がガラリと変わっていた 洞窟やそれ以前の魔導師の虐殺 それに対して集会所側の人間も一枚かんでいたというのだ ラディもその一人… 街の役人によって全てしょっぴかれたらしいけど 人を完全に信用してはならない そんな事を教えられた一件だった おっ 集会所の中央テーブルにて、コーヒーを飲みながらゆっくりしている魔導師がいる 白のショートヘアー ウィルタだ 「やぁ、おはよう、ウィルタ」 「あっ、カレン。おはよう」 「どうしたの?依頼やクエストに出ないの?」 「それがまだ受付できないらしいんだ。色々と準備中らしい」 「えっ、そうなの?」 「ああ、でも折角ここまで来たから、コーヒーでも飲んでいこうかと思って」 なるほど… カレンは彼女の隣に座った 「じゃあ、今日は休務だね」 「うん…仕方なく」 今日は活動できない 時間がたっぷりとできてしまった カレンもコーヒーを注文して ウィルタとガールズトークをする事にした 「そういやさ」 「うん」 「この間、アスラをぶっ飛ばしただろ?」 「うん」 「どうやら生きてたらしい」 「えっ!?」 生きてた? アレをくらって…?どんだけしぶといんだ あっ、でも、彼女は防御力も跳ね上げる事ができるから… 生き残る事は不可能ではないのか… はぁ~… 脱力してべったりとテーブルに伏せるカレン 「そっかぁ…で、彼女は今はどこに?」 ウィルタはにこりと笑いながら答えた 「牢屋ん中」 それを聞いてどこかホッとした 彼女とまた一戦交えるかもしれないと思うと… 骨が折れる でも、もしまたかかってきたとしたらもう一度ぶっ飛ばすだけ そう、今度は宇宙まで飛ばしてやるだけだ 牢屋にいる以上、それももうない話だけれど 「よかった~…」 安心して力が抜け、(ひたい)をテーブルにつけながらフリーズする その様子にウィルタは微笑した 「刑の方も近日行われるみたい。まぁ、死刑だろうけど…」 「そっか…」 死刑 あれだけの人を殺したらね… それに彼女は危険だ 絶対、外に出してはならない人物 生きていたら、また人が死ぬ事だろう 死刑は妥当か… 何はともあれ、彼女が捕まってくれて本当によかった 人の少ない集会所で、まったりとコーヒーを楽しむ二人 普段ならこんな事はしないので、ちょっと新鮮だった ウィルタもボクと同様、一人 彼女の友達もこの間の洞窟騒動で怪我をしてしまい、入院したらしい だからボクと一緒で、しばらくは一人での活動という訳だ 「二人してぼっちかぁ…」 「あはは…こればかしは仕方ない…少し寂しい気もするけど」 んー…それなら… 「…彼女達が復活するまで一緒に行動する?」 「おっ、いいねそれ。カレンがいたら私、何もしなくていいじゃん」 「いや、それはダメでしょ…」 冗談を言っては二人で笑い合った 彼女と話しているとすごく楽しい やはり、ウィルタはいい奴だ 今日はクエストを受けられないので、彼女もこの後はフリーだろうか 「この後暇?」 「うん、暇だよ」 「なら丁度いいや。この後温泉行こうよ!温泉」 「温泉…?この辺にあったか…?」 「いや、新設されたんだと思う。ここに来る途中に標識が立ってたんだ。どう?行く?」 「うん。行く」 カレンの誘いに笑顔で答えるウィルタ コーヒーを飲み干し、小銭を机の上に置いて集会所を出た 集会所から数分歩いた所に、朝来る時に見た標識を発見 木で作られた標識 とてもレトロ感が(ただよ)っている 「これこれ」 「ホントだ…すごい気になる…」 「だよね?標識の方向は…こっちか。いこいこ」 「よーし、行くか!」 温泉に入れる喜びと、新しい場所へと歩を進ませる未知なる冒険が、彼女達の気持ちを高ぶらせた おおよそ、100メートルごとに標識が立てられている それをたどってどんどん先に進むと大きな建造物が見えてきた 到着 間近で見ると、その建物の大きさに度肝を抜かれた 「はぁ~…こんなの建てたんだ」 「デカいな。これ全部スーパー銭湯か?」 「わかんない…とにかくすごい!」 「ああ!すごいな!」 スーパー銭湯でこの規模は初めてだった 楽しみで心が踊った 早速二人は建物内へと足を運ぶ 内装はどこもかしこ綺麗な状態だった 新設されたばかりというのもあるのだろうか アロマな香りもフロアに漂っている 「何か…おしゃれだね」 「うん…それに豪華」 「確かに」 ここにいるだけで少し癒されるような、そんな気がした 暫くその場の雰囲気を堪能してから受付まで行き、鍵をもらって脱衣所まで移動した ー脱衣所ー 午前中から温泉に浸かり、まったりと過ごす たまにはいいよね、こういうのも ごめんね…レティ 今度また一緒に彼女と来よう そんな事を考えながらカレンが脱衣していると、ウィルタがじっと見つめてきた 「なに?」 「カレンの下着かわいいね」 下着、か 誉められて嫌な気分はしないな 「そう?ウィルタのひよこ柄もかわいいと思うけど」 「おっ………カレンはわかってくれるんだなぁ…かわいいだろ?これ。私の連れには子供っぽいって笑われたんだけど…」 「そんな事ないよ、かわいいよ」 確かに子供らしさはあるけど 普通にかわいいと思う ウィルタはそれを聞いて気分良さげに鼻歌を奏でながら脱衣を続けた 二人とも脱衣が終わり、入浴へ 浴場へ足を運ぶと 多種多様の温泉と広い湯船が視界に入ってきた 「「おおぉ~!!」」 その光景に二人は目を輝かせた 「すごい!」 「あぁ!早く身体洗って入ろう」 「うん!」 最初に身体を洗い、湯船へと向かった 「この乳白色の湯、肌にいいんだって!」 「おっ、いいな」 乳白色の湯 その近くに温度計が設置されている 42.3℃ 「なぁ、熱くない?」 「ちょっと熱いかも」 「だよな…」 「でも…美肌のために…」 「美肌ね……カレンって好きな人とかいるの? 肌なんて気にして」 「いない…」 「そっか……」 「……女性として!女性としてだよ!美肌は大事だよね?」 「ま、まぁ…よぉーし、頑張るか!」 肩までしっかりと浸かり、10分間耐久した 最後の方はフラフラ 意識がぶっ飛びそうになりながらも、何とかこらえた 顔を真っ赤にして、休憩用に準備された白い椅子に座り込む魔導師二人 「ゼェ、ハァ、どう?カレン…肌……キレイになった?」 「ハァ、ハァ、わかんない…とりあえず赤く染まった…」 暫く涼んで違う湯船へと移動する お次は緑色の湯が張ってある湯船へ 疲労、筋肉痛に効果的な温泉 温度計 48.8℃ 「なぁ…ここって仙人とか、怪獣専用のスーパー銭湯だったりしないか?」 「どうだろう…でもここは熱すぎるね…露天もあるみたいだし、そっちに行ってみる?」 「ああ、そっちに行こう」 こんな所に入ったらゆでダコになってしまう 室内を後にして露天風呂に前進した 午前という事もあり、周りは誰もいない 貸し切り状態だ 湯の温度は…40.8℃ いい感じだ 「ここならいいかも」 「確かに丁度いい」 頭に白いタオルを乗せて 目をつぶりながら湯を堪能する二人 「ふぅ…極楽…」 じわりじわりと染み渡る 朝風呂も悪くない 「はははっ…カレン…おばあちゃんみたいだ」 「えー…そうかな~…」 肩から下がお湯の温もりに包まれ、 上からは心地のいい風が吹き抜けていく 気持ちよくて…寝てしまいそうだ ウトウトしているとウィルタが話かけてきた 「ねぇ、カレン…」 「んー…」 「この前さぁ…よくアスラに勝ったよね…あいつは魔導師の中でも最強クラスだろ?もうラスボスを倒したようなもんか」 「ラスボスって…」 カレンは苦笑いを見せた 勝ち……勝ち、かぁ… いや…あれは、やられていたなぁ 「ボク一人じゃやられていたよ…」 「えっ……ああ…レティもいたんだっけ。でもカレンだけで勝ったんじゃないの?謙遜してない?」 「あはは…してないよ…ボクじゃ彼女の才能を上回る事はできなかった」 そう…レティなしではきっとやられていただろう しかしながら… 次戦ったとしたら別 その時はしっかりと対策させてもらう でも、牢屋に入っている以上、次回はもうないんだけどね 「ホントにぃ?」 「うん…彼女は文字通りの化物だったよ。ボクもまだまだって事だ…」 …彼女は才能の塊 だから…あそこで止めることができてよかったのだ そう…よかった… ……zzz 「ちょっ、カレン!?寝ちゃだめだって!」 「ん?…あれ…」 「もう出ようか!休憩ルームでまったりしよう」 「え…うそ、寝てた?」 「ああ、完全に。溺れるぞ」 眠そうにするカレンを見て、くすりと笑うウィルタ 二人は浴場から上がり、髪を乾かしてから、リラックスルームへと移動した 広い空間に綺麗に並べなれたテーブルと座布団 それに対して人が少ないので、何とも変な感覚だった 端には棚が設けられており 漫画、雑誌等、何でも揃えてあった そこら辺で座布団を枕に雑魚寝してる人がちらほら確認できる 「ほら、ここならいくら寝てもらっても構わないから、寝たら?」 それもそうだが、もう完全に目が覚めてしまった 「折角だし、本でも読もうかなぁ」 「あらら…」 時間もある事だし、気になる漫画を一気読み テーブルに飲み物と漫画を置いて、ゆっくりと読み始めた 暫くして、ウィルタもカレンの持ってきた漫画を手にとり読み始める 「…………」 「…………」 「……カレン」 「ん?」 「続きは?」 「って早いな…」 もうカレンの読んでいる巻に追い付いていた 「早く早く」 「ちょっ、急かさないで…ボクはじっくり派なんだから」 「あはは、ごめんごめん。これ面白いからさぁ」 どうやらハマってくれたようだ 面白さを共感できるのは嬉しい事 「ちょっと待っててね」 そう言ってカレンは微笑んだ 今日はかなりのんびりしているが リラックスできてとても充実している気がする 家で一人、地味に過ごすよりもずっといい そんな事を思うカレンだったが、魔導師二人が向かい合わせで静かに漫画を読んでいる姿は、思ったよりもずっと地味だった
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