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「ねぇ、ウィルタ。次の巻、先読んでていいよ」 「えっ、いいの?」 「うん、ボクは少し休憩するよ。その前に飲み物買ってくるね」 「了解」 嬉しそうに次巻に手を伸ばすウィルタ カレンはその場から立ち上がり、自販機へと向かった ー自販機前ー 「温泉といえば…コーヒー牛乳か」 指定の番号を押して、コーヒー牛乳を購入 それを持って戻ろうとした時 横の自販機で飲み物を買う人物と目があった 「あっ、雅貴(まさき)さん」 兎玄(とぐろ)雅貴(まさき) ボクがよくお世話になってる人だ 「よぉ、カレンちゃん。元気してた?」 「はい」 洞窟の一件とか、色々あったけど… 大事には至らなかったしね 「今日は休みかい?」 「え、ええ…今日は休みです。雅貴(まさき)さんも?」 「ああ、今日は定休日だ。新しくできた銭湯で疲れを癒そうと思ってね。見たところ、カレンちゃんもそんなとこだろ?」 「はい、そんなとこです」 二人で話しながらリラックスルームへと帰る それを見たウィルタはとてもビックリしていた 「なっ…なぁ!?兎玄(とぐろ)!?」 「あっ、ウィルタ」 二人とも知り合いだろうか? 「な、何してんだ、こんなとこで!というか、この街にいたのか?」 「ああ、というか、どこで何をしようが、俺の勝手だろ。お前には関係ねーって」 「うっ……ああ、そうかよ…」 頬を膨らませてプイッとそっぽを向く彼女 な、何……? 二人はどうゆう仲なの? カレンは元いた場所へと行って座った その瞬間、向かいにいるウィルタが身をのり出して聞いてきた 「カレン、あいつの事、知ってるの?」 「う、うん…釣具屋さんだよ?」 カレンは川釣りも海釣りも大好きで、竿、リール、釣りエサ等をよく彼の店で買っていたのだ 「つ、釣具屋!?」 目を見開くウィルタ 彼女の驚きようは尋常じゃない 「兎玄(とぐろ)!お前、何考えてんだ!」 「だ・か・ら、お前には関係ねーだろって」 「うっ……」 彼女は下を向いて黙ってしまった 二人は本当にどういった関係なのかな… 気になってしょうがない 「カレンちゃん」 「えっ、あっ、はい」 「最近は近くの堤防でアジが釣れてるみたいだから。またエサ買いにおいでよ」 「あっ、はい、わかりました」 その返答に兎玄(とぐろ)はニコリと笑顔を見せて帰って行った ウィルタは帰る彼の背中を見て、不服そうな顔を浮かべる 「んだよ…冷たい奴…」 すっごい気になる 「ねぇ、ウィルタ!雅貴(まさき)さんとどういう仲なの?」 「どういう仲って……」 「教えて、教えて」 興味津々のカレンを見てため息をこぼすウィルタ 「実は……あいつとは幼なじみで」 「幼なじみ…という事は、地元でずっと一緒だったの?」 「そう」 これは…青春の香りがプンプンする 「そして兎玄(とぐろ)はたぶん地元で一番強かった。私よりも…他の誰よりも。そんな彼は皆の…そして、私の目標でもあったんだけど…」 それが今では釣具屋 「くっ…何考えてんだあいつ…」 唇を噛んで、顔を歪ませる彼女 確かにそれは…ショックかもしれない 雅貴(まさき)さん魔導師だったのか… 「どこに行ったのかわからなかったけど…この街にいたんだ…」 ウィルタはカレンに彼がどこの釣具屋で働いているかを聞いた きっと彼にちょっかいを出しに行くんだろう… カレンはウィルタの様子を見てニコリと微笑んだ 「な、何?」 「いや~…青春だなぁって…」 「ち、違う!これはそんなんじゃないから!」 顔を赤くして言われても… もう漫画も目に入ってないようだしね 「ボクは暖かい目で見守らせてもらうよ」 「だから違うって!!」 照れる彼女は新鮮だった ー後日ー 釣具屋のレジカウンターにて、雑誌を片手に店番をしている兎玄(とぐろ)の姿があった 「ねぇ…兎玄(とぐろ)(あん)ちゃん」 「ん?どうした?」 腰を上げてレジから移動する 「魚ってさぁ…何でこんな気持ち悪い物を食べたがるの?」 おさげの女の子が釣りエサケースの中を眺めながら聞いてきた ケースの中は※アオイソメがうねうね(うごめ)いている ※カレイやハゼ等を釣るのに定番の釣エサ ミミズのようなもの しかし、ミミズよりもグロい 「さぁ…そいつぁ俺にもわからねぇなぁ…」 兎玄(とぐろ)は苦笑いで答える 「そっかぁ…今度お魚さんに直接聞いてみるね!わかったら(あん)ちゃんにも教えてあげるから!」 「ははははっ…そいつぁいい。わかったらぜひ教えてくれ」 そう言って優しく女の子の頭を撫でる すると彼女は嬉しそうに笑った 「こらこら、エミリ、お兄さんの仕事の邪魔をするんじゃない」 彼女の父親が買い物かごを持って歩いてきた 「えー…邪魔じゃないよ!」 エミリは兎玄(とぐろ)の袖をぎゅっと掴む 「ほんとすみませんね…なんか…」 「いえいえ、いいんです。僕と遊んでくれるのはエミリちゃんくらいですから…」 「そうですか?そう言っていただけると助かります。ほらっ、そろそろ釣りに行くぞ、エミリ」 「は~い」 親子はエサと釣具を買って店を出ていった 「まいどぉ~」 さてと… 再び雑誌に目を落とす兎玄(とぐろ) するとすぐに店のドアが開いた ガラガラガラ… おっ 「いらっしゃい…ってお前かよ…」 ウィルタだった 「何だよ。来て悪いか」 彼女は後ろ手にドアを閉めた 「別に…で、どうした?」 彼女は釣りをするような奴じゃない で、あれば何か違う用事だろう 「いや…特にどうしたという事はないんだけど…何となく来てみただけで…」 もじもじする彼女 何だ、こいつ… 「暇なん?」 「ち、違う…暇じゃない」 「じゃあ、何しに来たんだよ」 「あっ、いや…別に…」 「何なんだお前…」 「別に、ちょっと時間あったから寄っただけだ!ここは、お前の職場だろ?私の事はいいからバリバリ働け!」 よく言うぜ… 「…お前こそ働け」 「だから、私はまだ待ち合わせまで時間があるんだって」 「さいですか…ごゆっくりどうぞ、お客様」まぁ、どうせ何も買わないだろうけど 釣りをしない者がこんな所に来たって 面白くも何ともないだろうに どうでもいいけど… 彼は雑誌を読み始めた そんな彼をじっと見つめるウィルタ じぃ~… ずっと見られると気が散ってしょうがない 「何?…仕事の邪魔すんな」 「仕事?してないじゃん…」 「店番も仕事の内なの」 「そっか…ふぅ~ん…」 ウィルタは店内をぐるっと見回して口を開いた 「やっぱり、もう一個の釣具店の方がデカイなぁ…道具も豊富だし…カレンにそっちを紹介してあげた方がいいな、うん、そうしよう!」 なっ… ばっと雑誌から顔を上げる兎玄(とぐろ) 「ウチの常連、奪うんじゃねーよ!」 彼の反応にクスクス笑うウィルタ 「どうしよっかなぁ~」 「お前なぁ…」 「あははは、冗談だ。本気にすんなよ」 彼女はずっとレジカウンターにいる どうやら構ってほしいようだ 「はぁ…」 仕方ない…どうせ暇だし、話し相手になってやるか 「なぁ、最近の調子はどうだ?」 「えっ…」 兎玄(とぐろ)からの不意な問いかけに目を丸くする彼女 「暫くの間に、強くなったみたいじゃねーか…気づけば上位ランカーか?」 「し、知ってたのか」 「ああ、そういう情報はよく耳に入ってくるんでな。すげーな…やるじゃん」 ………嬉しい… 兎玄(とぐろ)から称賛され、喜びが溢れかえる 自然と口角が上へとつり上がった はっ…ダメだ 彼女は緩みそうになる口元を何とか押さえ込む 「ゴホン…ま、まぁ、これぐらい普通だけどな…」 「ひゅ~、言うねぇ…もう俺も敵いそうにねぇなこりゃ…」 地元最強のあの兎玄(とぐろ)が? 「そ、そんな事はない。兎玄(とぐろ)ならまたすぐに…」 「もういいんだ俺は…現役じゃねーし。だから、俺の分まで頑張ってくれよ。な?」 彼はそう言って口元を緩ませる それを見て心が少し痛んだ 彼はもう魔導師に戻る気はない そういうことだろうか そう思うと、急に寂しさが募った 「そんな、現役じゃないって…まだまだ若いのに、何言ってんだ」 「おい、時間…大丈夫か?」 「あっ…」 気づけば30分経っていた 「ヤバいヤバい!」 店の出口に急いで走り出すウィルタ そんな彼女の背中を見て兎玄(とぐろ)は笑った あいつ…全然変わらねぇ 「もう、()んなよ!」 「うるさい!まだ話は終わってないからな!」 「次来たらアオイソメ振りかけんぞ!」 「な、何…?アオいそ?」 「もういいから、早く行け!」 彼に急かされ、ダッシュで店を飛だした なんか、懐かしい感じ 彼と話していて、少し昔を思い出した 兎玄(とぐろ)… 全然変わってないじゃん 嬉しくて胸が高鳴る ウィルタは口を緩ませて待ち合わせ場所へと向かった
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