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尾張(おわり)市民病院ー レティはまだ療養中だった そのレティの部屋の花瓶の水変えと、新たに花をさす女の子の姿があった 「アルマ…そんな頻繁にお見舞い来なくてもいいよ?」 「あっ、ご迷惑でしょうか…」 「いやいやいや、そんな事はないけど…」 伸ばした腕を左右に振る 「なんか悪いなぁと思って…」 「そんな事気にしないで下さい。私が好きでしてる事ですから」 にこりと笑うアルマ 本当にこれでいいのか… もっと時間を有効的に使った方がいいのでは? 「でもさぁ…看病してるよりも、外に出てランクを上げてる方がよっぽど有意義だと思うんだけど。アルマのお姉ちゃんにも怒られちゃうよ?」 「いえいえ、レティさんといるのとても有意義だし。それにお姉ちゃんには『行ってきなさい』っていつも言われてますから大丈夫です」 姉妹共々お人好しだな… 「そっか…めんどくさくなったらすぐにやめていいからね?」 こうは言うけど… 来てくれるのは嬉しい 話し相手になってくれるし 寂しい思いもしない でも悪い気もするし… 複雑だなぁ… 「はい。でも、めんどくさいなんて絶対思いませんから大丈夫です」 この子…マジでいい子だ… 「あまり一緒にいると自分の(みにく)い部分が際立(きわだ)つと言うかなんと言うか…アルマの影響にも悪いだろうし…」 ぶつぶつ呟くレティを見て微笑むアルマ 部屋の窓からは明るく気持ちのいい朝の日差しが差し込んでいた そのまま静かな時が流れる レティは読書、アルマは隣で勉強していた カチ、カチ、カチ、カチ… 時計の時間を刻む音だけが部屋に響く 「あの…レティさんもそういう料理の本とか読むんですね」 静寂の中、始めに口を開いたのはアルマだった 「まぁね。意外?私は卵かけご飯ばかり食べてると思った?」 「い、いえ、そんな。強くて、料理まで出来るなんて…かっこいいなぁって」 レティは本を開いたまま暫くフリーズした なっ…なんて… なんていい子なの… 「はっ…」 いかんいかん 思わず※チョロインになってしまう所だった…危ない、危ない ※チョロイン ちょろ過ぎるヒロインの略 「まぁ、今度(ウチ)においで。何かご馳走してあげるから」 「えっ」 「お礼として、それぐらいはしないとねー」 「お礼なんてそんな…いいんですか?」 「ああ、いいよ」 「やったぁ!今度、お邪魔させていただきますね!」 彼女はガッツポーズして喜んだ 家に呼んで食事をするだけなのだが… ちょっと大袈裟(おおげさ)な気がして 苦笑いを見せるレティ そういえば… 「さっきから、何の勉強してんの?」 「あっ、これはですね…資格です」 ホントに真面目だね 「で…何の資格?」 「危険区域です。今度レベル6を受けようかと…」 危険区域の資格 高レベルを取得する事によって 魔導師が様々なエリアへと足を踏み入れる事ができるようになる資格 この世界のダンジョンには 低レベルの資格では行けない場所が多々存在するのだ そういや…私も勉強したなぁ… カレンがどんどん上に行こうとするから 絶対負けまいと…私も上を目指したんだっけ 最終的に、お互い張り合って…… はは……思い出したくねぇ… ま、私の思い出話なんてどうだっていいや 「そっかぁ…えらいじゃん。頑張って」 「ありがとうございます!頑張ります。あの…ちなみにレティさんでレベルどのくらいですか?」 「私は…13」 「えぇっ!?一番最高レベルじゃないですか!!きゃあぁ~!!」 手を握られ、腕をブンブン上下に振られた 「お、落ち着いて…」 「あっ、はい。あの明日、私の友達を呼んでもいいですか?」 「ここに?どうして?」 「みんな資格を取りたがってて、教えてくれる人がいたらいいなって言ってるんです。だから」 「わかった、わかった。連れてきていいよ」 「ありがとうございます!」 個室だから、周囲に迷惑をかける事もないし問題はない どうせ暇だし…わかる程度なら教えられる 私が取得したのはけっこう前だから、少し自信には欠けるけどね… 彼女には感謝してるし 少しでも協力したい 時は夕刻 いつも暗くなる前にアルマには家に帰るように言っている ここは尾張(おわり)市 魔法の使えない地域であり 辻斬りの多い所や、不可解な死も多数見受けられるので、注意しなければならないのだ 夜になると更に危険が増す 彼女は少し(しぶ)っていたが、早々に帰ってもらった 別にこちらとしても帰ってほしい訳ではないんだけど 心配なだけであってね その辺はご理解してもらいたい 病室のベッドで一人、腰を下ろすレティ さてと…本の続きでも読むかなー 眠くなったらウトウト寝落ちするもよし 枕元に隠していた、超甘ったるい学園系ラブラブストーリー物のラノベを手にとり、挟んである栞のページを開いた ……… …… 「こいつら…いつになったら告白すんの……()れったいなぁ…くそ……」 ……… …… 「そうだっ…そこだっ…そこでチューを……あー…もう馬鹿ぁ…」 ……… …… 「ていうか、こいつ…鈍感過ぎない?あぁー、もう!ムカつく!ふざけんな!くそ、早く結婚しろ!ジーザス!」 「じゃあ読むなよ…」 「うひゃあ!!」 いきなり声をかけられて 両肩が飛び跳ねる 声の方向を見ると カレンが立っていた 「カレン!ノックぐらいしてよ」 「したよ、何回も。それでも返事が無いから、君が死んでないか心配になって入って来たんだよ」 「そっか…まぁ、私が死ぬ事はないから安心しなよ」 「そうだね、君は相当しぶといから、そうそう死ぬような事はないだろうね。ところで…この本は何なの?」 「あっ…」 死んだ… 「ちょっ、返して/////」 「はいはい」 カレンはすぐに本を返してあげた 「……レティも女の子だったんだねー」 「あ、当たり前だ…/////私だって乙女なんだぞ!たまにはキュンキュンしたくなるだろーが!この馬鹿ヤローが!」 そんな事言われても困るだろーが…… 別に人の性癖や趣味に文句を言おうとは思わない 人それぞれだと思うから 大幅に道を外れなければそれでいい 顔を赤くするレティを(なだ)めて、持ってきた物を彼女に見せた 「はい、これ…暇だろうから、漫画の追加だよ」 「おっ、あんがと!」 「うん。それと…今、お腹減ってる?」 「減ってる、減ってる!まぁ、さっき病院食を食べたばかりなんだけど…味が薄いのなんのって……何?スパイスのきいたフライドチキンとか買ってきてくれたの?」 患者にそんな重たいもの買ってくる訳ないだろ… 苦笑いで紙袋から真っ赤なりんごを取り出すカレン 「りんごだよ…剥いたげる」 「お、おう…ありがと」 レティはりんごが大好きだ なのでいつも皮剥き用のナイフを持っている この場でもそれは変わらない 「ナイフ、借りてもいい?」 「いいよ」 ナイフを借りてスルスルとりんごの皮を剥いていく 「なぁ」 「ん~?」 「最近なんかしてる?」 「最近ねぇ…ウィルタと一緒に依頼こなしてるよ?」 「そっかぁ…」 ………… 少し肩を落とすレティ まったく…かわいい奴め… 「ふふ、依頼と言っても簡単な物ばかりだからさ、安心しなよ。置いてったりしないから」 「だっ、誰もそんな心配してねーっての!」 と言いつつも少しホッとする彼女だった 「君も少しばかし、何かあったんじゃないの?」 「ん?なぁ~んにも」 嘘ばっかし… 「ボク以外にもお見舞いに来てくれてる人がいるみたいじゃん」 花瓶に添えられた花を見つめて 微笑むカレン 「あ、ああ…それね。アルマが来てくれてる」 「ふ~ん、ファンができたね~、レティ~♪」 「あー、お腹減ったなぁー。黙って手を動かしてもらえますかねー?」 「はいはい」 嬉しいくせに… 素直じゃないなー カレンは皮を剥いたりんごをキレイに切り分けて皿に乗せた 「はい、どうぞ」 「ん、ありがと………あのさ…カレン…」 「ん?」 「さっきはああ言ったけど…さ……ホントに、一人で先に行くなよ…」 彼女は照れながら呟くようにそう言った 「はいはい」 うい奴め… しかし、レティの復帰も もう暫くかかりそうだった 仲間を守った名誉の傷は、それくらい重かったという事だ 気長に相棒の回復を待とう 先を急ぐ事もない
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