標識表示街

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今日は朝から街の中に流れる川に遊びに来ていた お気に入りの黒いワンピースを着て、サンダルと麦わら帽子を装着し、いざ出陣! 暇人と思った方は沢山いると思いますが 大正解です まだ…外禁中なので…街中で我慢 辺りを見回すと いつものように標識が至るところに刺さっている ポイ捨て禁止、遊泳禁止、火遊び禁止、それとまた徐行標識 ここでの徐行は何を意味するのだろうか… 考えたが、全く持って意味不明だ まぁ、いいや とりあえず釣竿も持ってきたので、針にエサを付けてウキを川に浮かべさせてみた しかし、そこからはウキに一切の動きは無かった 「おかしいなぁ…地元だったら、これで釣れるのに…んー…なんで?」 意地でも何かGETしてやろうと エサを付けて、投げてをひたすら繰り返すカレン が、ダメ 時間だけが一刻また一刻と過ぎて行った まるで生態反応が感じられない… どうなってんの…この川は… いや、待て 落ち着け…焦るな… これこそが釣りなんだ… 忍耐=釣り 耐えて、耐えて、耐えて 耐え抜いた先に見えるものは大きな達成感に違いない カレンは根気強く待つ事にした 期待を膨らませながら そして、その先に見えたものは 目に染みる眩しい夕日だった… 達成感は皆無 「何コレ…」 しつこく1日粘ったのに…全然ウキがピクリともしない… 今日の成果はサワガニ一匹だけだ 先程、釣りは無理だと判断し ボウズだと 悔しいので浅瀬の石をめくりまくった そしてやっとGETした生命体のサワガニ とりあえずバケツの中に入れた 後で、ちゃんと逃がす予定です まだ遊び足りないボクは 河原で平べったい石を見つけて、水切りを始めた 今日1日ここにいて、1mmも楽しいと感じる事ができていない 疲れただけ それでは帰るに帰れなかった 水切りを堪能した後は 少し川に入ってみた 「冷たいけど…気持ちいい…」 爪先から足首にかけて、ヒヤリと涼を感じる 夕日に照らされた川の水は綺麗な赤紫色に輝いていた 「綺麗…」 「私もそう思うわ」 「っ!……エリザ」 いきなり声をかけられてびっくりした 声のした方向に視線を向けると 同ギルドのエリザが立っていた 彼女はギルドの中でも上位ランカー ただ、変わり者と言われており、常に一人で行動している 今日はダンジョンに出ていないのだろうか 「ねぇ、あなたも綺麗な赤色だと思った?」 「うん…綺麗だと思う」 「そうね。本当に綺麗…」 白いワンピースの彼女は嬉しそうに川の流れを見つめて鼻歌を歌う 何かいい事でもあったのだろうか 楽しそうに川の中をザブザブ歩いている そんな中 彼女はふと口を開く 「この川の水…まるで血の色みたいだと思わない?」 「血の色?」 エリザはコクリと頷いた 日も傾き始めて、先ほどまで赤紫色と感じていた川も、赤黒くなってきているように見える 「確かに、そうかも」 「でしょ?」 「今足元に流れる水を飲んだら、血の味がしたりして」 「え…そんな、まさか…」 エリザは水を掬って口元に運ぶ 少し飲のんで彼女は嬉しそうに微笑んだ 「ふふ、やっぱり血の味がする」 ……あり得ない 「何言って………っ!」 彼女の白いワンピースを見て気がついた 水の跳ねた部分が所々赤く染まっている 何これ…天変地異? 「なっ」 自分の身体に跳ねた水滴も赤い 「嘘…どうなってんの…?」 「驚く事はないわ。この川の少し上の方で人が何人も殺されただけだから」 !? 殺された…?何人も!? 「どういう事…?」 「なぁに。そこで公開処刑が行われただけよ」 「公開処刑?」 「そう」 彼女が言うには罪人30名程度が 本日ここの近くの河原で首を落とされ 公開処刑されたのだとか 現場から近いという事もあって その首を切られた人達の血が ここの川を赤く染めたようだ 驚きなのが 何故か彼女が楽しそうにしている事だ 公開処刑があった事がそんなにも面白いのだろうか… カレンは急いで川から上がった それを見てクスクスと笑う彼女 「川遊びはもういいの?堪能できたのかしら」 「う、うん。もう十二分にね。じゃあ、ボク帰るよ」 「あら、せっかくだからお話しましょうよ。ね?」 えぇ…もう帰りたいよぉ… 彼女といると場の空気が固まるし苦手だ だが、彼女がしつこく引き留めるので、仕方なく、会話に付き合うことにした 「ねぇ…」 「何?」 「公開処刑って見た事ないの?」 どんな質問…? 女子同士の会話とは思えないワードが飛び出した 「ないよ、そんなの…見たくないし…」 それを聞いて彼女はびっくりした様子だった 「どうして?」 「どうしてって…嫌だから」 「嫌?」 「人が死ぬ所なんて嫌でしょ?」 エリザは段々と口角が上がっていく 「そっかそっか。本当のところは?」 「いやいや、嘘じゃないから。本当だよ」 「いいえ、本当なら他人の不幸が嫌な訳ない」 「……」 「人の不幸は蜜の味。人が不幸になっていくのを見ると面白いし、楽しくてしょうがないはず」 最低だ… 「人が試験や検定、試合で落ちたり負けたりして沈んで行く様」 「戦場で他人や仲間がバタバタ倒れていく中、それを踏み台に自分だけが生き残り、英雄となる事」 「可愛いくて、美人でスタイルのいい女の子が沢山の男にボロボロにされ朽ちていく様」 「どれもこれも最高だもの。そうは思わない?今回の公開処刑もそうだった」 「相手は今から殺されるという絶望的な状況にいる中、私には全く危険は無い。この圧倒的な優越感がいつも堪らないの…セーフティという名の愉悦を染々と楽しめた…もう感無量だわ」 はぁ…スーパークレイジー… 彼女はずっと嬉しそうにしている 楽しくて仕方なさそうだ 「そうそう。死ぬ直前、首を切られる前に彼らは決まって助けを請うの。助けて~、助けて~って。あはははは…死にたくな~い。って。その様が、もうね…傑作だったの!」 その場面を思い出したのか 楽しそうにお腹を抑えて笑っている どうしようもない子だなぁ… 「明日は我が身」 「え?」 「そういった人の不幸は笑わない方がいいよ」 エリザはカレンに視線を向ける 「自分が被害の対象者になった時に相当ダサいと思うから」 「私が対象者?」 「そう。これまでの行いが自分に帰ってくるのが世の(ことわり) 因果応報という言葉は知っているだろ?」 「へぇ~、なるほど。私に何が帰ってくるのかしら?楽しみね」 「さぁ?さっき言ってた楽しい事全てが降りかかってくるんじゃない?知らないけどね」 エリザは笑うのを止めた 代わりに緩やかな川のせせらぎが聞こえてくる 場の固まった空気が一気に解けていく 優しい風が吹いて カレンの前髪がサラリと揺れた 「言うわね、カレン。私と()りあってみたくなったのかしら?」 「いや、そんな事はないよ。でもやったら、やったでボクは君には負けないだろうけどね」 「なんで?どうして?」 「なんでも」 カレンはにこりと微笑んだ 「理由が知りたいわ」 「理由ねぇ…正義は勝つってあるでしょ?だからかなぁ」 エリザは笑った 「あなたが正義だと?」 「君よりはね。他人の不幸を笑うような悪党に、ボクァ負けたりしない」 「ふーん…あなた面白いわね。外禁解放が楽しみね」 「うん、その時はいつでもかかってきなよ。」 絶対負けない 彼女には負ける気がしない 「あのさ…お腹減ってない?そろそろ帰ろうよ」 「あー…そうね…」 もうすっかり日が落ちていた バケツの中のサワガニを川に放し、釣り道具を片付けて荷物をまとめた 「あっ、そうそう」 「何?もう怖い話は勘弁してね」 「大丈夫、大丈夫。あの徐行標識、何で立ってるか知ってる?」 ああ…始めに見たあれか 物寂しげに川の奥の深い場所に突き刺さった徐行標識に目を向けた 「いや、知らない。何でだろ…」 「ここはね、自殺する人が多いの」 「……へ?」 「あの徐行標識は、早まるなっていう意味らしいよ」 固まるカレン それを見てクスクス笑うエリザ 「だから怖い話はやめてってば」 「これくらい怖くないでしょ?ヒーローさん」 この街は色んな場所で人が死んでいる だから所々で異様な雰囲気を感じるのだろうか 来たばかりで知らない事が多すぎる わかっている事は これからこの川で釣りをする事はもう無いという事だ 01e805b8-3360-4cec-bdd6-a3ed4d9aaf46 【エリザ・ドール】
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