標識表示街

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【夜食の誘惑】 ボクとレティはいつものように依頼を終えて集会所に戻り報酬を受け取った 「ねぇ、分配しようよ」 「オッケー」 集会所に常備されている長テーブルを間に挟んで座る 「いくらもらった?」 紫色の巾着袋の中身を机の上に広げた 「ひぃ~ふぅ~みぃ~よぉ~……」 「100文…」 「100文ねぇ…じゃあ50文ずつ?」 「だねぇ…」 むぅ…少ないなぁ… まぁ、簡単な依頼だから仕方ないのかもしれないけど 50文となると…朝昼晩のご飯代で消えそうだ 「ねぇ、カレン。お金も入った事だしぃ…今日の夜さぁ、そば食べにいかない?」 「そば?」 「そそ、最近旨い屋台があるんだって。夜だけやってるらしいんだけど…どう?」 「ああ、夜鷹(よたか)そばね」 「そうそう」 夜鷹(よたか)そば 夜9時頃から明け方まで営業している屋台のそば屋さん 他の飲食店が閉まっている夜中の商売で、それに安価という事なのでそれなりに売れているようだ そばかぁ…夜のあの小腹の空いた時に暖かいそばをずずずっと… ん~…そそりますなぁ… 「いいね!いくいく」 時間と場所を決めた後、解散して家に帰った これは楽しみだ… ー午後9時過ぎー ボクはレティと合流して、蕎麦屋に前進した 通り道左右の端は無数の様々な花が咲き誇り、花畑となっていた キレイ… 月夜の花も…悪くない 「ねぇ、カレン」 「ん?」 「この街って不気味な所が多いよね」 不気味、ねぇ 「……」 「んー、なんでだろう…」 「さぁ…きっと気のせいだよ」 「そう?私の杞憂(きゆう)かなぁ」 まぁ…あれだ そうは言ったけど、気のせい…ではない ボクもそれは感じている そう。この街は 思わず立ち止まってしまうような綺麗な場所や 他とは一つも二つも違う傾いた街並みをしていて、夢の世界と見ま違うような面白い場所ばかりだ だけど…どこか、もの寂しさや不気味さを放っているのだ なぜかは知らないが それは知らない方がいい そんな気がする ー夜鷹(よたか)そば屋台ー オレンジ色に光る提灯(ちょうちん)が屋台の周りを優しく照らす 暖簾(のれん)の下に置かれた長椅子には誰も座っていない まだ9時半程度だが…お客さんは入ってないみたいだ 「や~ったね!空いててラッキー♪」 「日頃の行いかなぁ」 「あー、確かに~。私がね」 「よく言うよ…ボクだよボク」 二人で馬鹿言い合って暖簾(のれん)をくぐる 屋台の中は暖かくていい匂いが漂っていた 「へい!らっしゃい!おぉ…可愛いお嬢さん方ぁ…よくきてくれた!さささっどうぞ、どうぞ」 すぐさま、綺麗に巻かれたおしぼりを二つ、ボクとレティの前に用意した あらら、お上手な人 「いやん、そんなぁ…べっぴんだなんてぇ…やっぱり?」 いやんいやんと頬に手を当てて喜ぶ彼女 いや、そこまで言ってないと思う… 「さぁ、なんにしましょ?」 ふむ… とりあえず一度、品書きに目を通す そば…十六文 玉子とじ…二十二文 天ぷらそば…二十八文 上酒一合…四十文……今はお酒はいらない むぅ… 「ねねね、どうする?」 「そうねー。やっぱ天ぷらはうまそうだよねー?でも玉子とじも捨てがたいしぃ」 この子、そば通だっけ? 「おやっさん、天ぷらそばに玉子とじトッピングしたならいくらかな?」 ほお…と少し楽しげな反応をする店主 「そうさなぁ…お嬢ちゃん可愛いから三十二文でどうだい?」 「わぁお!さっすがぁ!こだわりは?」 店主はニコリと笑う 「いくらでも増してやるよ。自由に言いな」 「はぁ~、おやっさん愛してるぅ~♪」 「感謝の気持ちはお金(チップ)でどうぞ」 「言葉だけで十分でしょ?」 「あたたた…それじゃ食ってけねぇよ」 と笑いながら店主は天ぷらを揚げ始めた 「黒髪のお嬢ちゃんは?どうするんだい?」 「あっ、あの、同じで」 店主の手際の良さに見とれて注文するの忘れていた… 「はいよ。二人ともこだわりは?」 ボクはレティの肩をちょいちょい引っ張った 「ね、レティ」 「ん?」 「お任せしていい?」 「オッケー。おやっさん、二人ともネギ増し、ほうれん草増し、麺固め、愛情増し増しでよろしく」 「くははははは…愛情増し増しかい。通だね、お嬢ちゃん。サービスしとくわ」 愛情増し増しってなんだろ? カレンが不思議そうな顔をしているのに気づいてクスッと笑いながらレティは答えた 「天ぷらのオマケだよぉ」 コソコソっと耳元で小さく呟く なるほどね…彼女は通だ 揚げる天ぷらがこれまたいい匂い 二人の嗅覚を刺激し、食欲が促進する 「お腹減った…」 「だね…楽しみ」 そばの完成が待ち遠しい 「…お嬢ちゃん達、魔導師の人かい?」 「うん、そうだよ」 「どうだい?ここら辺は。儲かるの?」 最近はダンジョンには出ていない まだ殉職する人が続いているので 出るに出られないのだ 「いやー…ぼちぼち、ですかなぁ」 それを聞いて店主は笑った 「どこもそうかい」 そういえば…まだボク達以外にお客さんがいない 「おやっさん、今日は人が入らない日?」 「あー…そうかもしれねぇな…昨日はもっと入ったんだけどなぁ…おっとっと、麺固めだったな」 麺をお湯から上げて器に盛った その中にスープを注ぎ ほうれん草、かまぼこ、油揚げを乗せて 最後に、具のてっぺんにエビ天が腰を据えた しかも二つ… 素晴らしい… 店長の愛情に感謝 「はいよ!お待ちどうさん!」 きたきた! 「「いただきます」」 夜の小腹の減る時間帯 そこで食べるそばは反則的な旨さだった レティのチョイスも最高だった エビ天に玉子とじ そばの二大巨頭 はぁ…来てよかった… 骨身に染みるとはこの事だ c3f2ecda-b57f-4644-b263-5d4cd0f87fca夜鷹(よたか)そば】
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