標識表示街

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ー夜鷹そばー 食事を楽しんでいると 新しいお客さんが一人入ってきた 「らっしゃい!どうぞ」 ガタイのいい中年の男性だ 犬も連れているようで、後ろで待機中させている もふもふの柴犬 尻尾がパタパタと揺れている 可愛い… 「おう、おやっさん、そばと上酒もらえるか?」 「へい!お酒はすぐに?」 「あぁ、頼む」 少し眠たそうにしている 中年男性はとても疲れているように見えた 「はい、上酒。お疲れさんです」 「あぁ、どうも」 おちょこにお酒を注いで ゆっくりと口へ運ぶ 「…っはぁ~……ああぁ…うまい」 美味しそうに飲むなぁ… 思わず横で唾を飲み込む 「しかし、おやっさん…よくここで店を開いたな」 「ん~、どうして?ここは何か曰く付きですかい?」 「あぁ」 曰く付き…?何かあるのかな? 「気を付けろよ。辻斬りが出るんだよ、ここは」 辻斬り…物騒な 「ここがどこかわかってないのか?ここは尾張(おわり)だぞ」 「えっ、ここが尾張(おわり)!?そいつぁ知らなんだ…まぁ、この街に来たばかりですから。はぁ~…道理でお客が入らない訳だ」 店主は頭をポリポリ掻きながら言った 尾張?聞いたことあるような… 考えていると、中年男性と目があった 「お嬢ちゃん二人は、何しにここへ?」 「そばを食べに」 「丸腰でか?」 まぁ、戦いに行くわけでもないし 「はい…」 「おいおい…お嬢ちゃん達魔導師か?」 「…そうですけど」 「尾張で術は使えねーんだぞ?」 術?…魔法の事か そりぁまぁ、どこも魔法禁止だし… 「それは…この街でならどこでも…」 男性は頭を振った 「違う違う、根本的に使えないんだ…いざという時、どうしようもない時に使えない」 「えっ、どういう事ですか?」 「街の中枢である尾張地区からは強力な結界が張られていて魔法が発動しない…つまり」 つまり…? 「どんな魔導師も武器を持った人間に簡単に殺されるという事だ」 ……… 「よかったな、お嬢ちゃん達。無事そばが食えて。ヘタしたら、逆に食われてたかもしれねーぞ」 それを聞いてレティが椅子から立ち上がった 「ご心配なく!私達こう見えても鍛えてるんで!」 「ほぉ、そうか。辻斬りが出たら丸腰で対処するのか?」 「当然でしょ!素手で闘ったら世界最強と言われているこの私に対して、愚かな質問ね」 そんな話、初めて聞いたけど… 「あのね、おっちゃん。ちょっと自分がガタイいいからって図に乗ってない?」 「ちょっと、ちょっと」 レティの悪絡み…たまにスイッチが入る 「レ、レティ、落ち着いて」 するとレティはボクの肩にポンと手を置いた 「ちなみに、この子は着痩せするタイプでね、脱いだらすごいんだから!なめんなよ!」 とボクの上衣をインナーごと捲り上げてきた な!何してんのぉー!!? 「ちょっ、バカっ////」 ボクは必死で抵抗した 「ほいっと」 「ひっ///」 「ほっ、よっ」 「や、やめっ!やめんかぁー////」 「どうしたの?カレン?」 「それは君でしょ!?何すんのさ、いきなりぃ!」 「いや、カレンの自慢のマッスルを見せてつけてやろうと」 「そんな筋肉持ち合わせていないよ!なぁに考えてんのさぁー!このバカー!!」 「バカとはなによ!バカとはー!!」 そこからはギャー、ギャーと二人で言い合った それを見て中年男性は大爆笑 「いやー、いやいやいやぁ…笑った笑ったぁ……はぁ…悪い悪い、お前らただ者じゃねーようだな」 「やっとわかったか」 今のやりとりで何がわかったのだろうか… 「お前らは大丈夫そうだ。まぁ、それでも尾張に来る時は注意しな」 「ここって、そんなに危険なんですか?」 「ああ。来る時に、注意標識も沢山立ってたろ?」 注意標識?あったかな……暗くて見落としたのだろうか… 「どこから来た?」 「あの花畑の方から」 「あー…あそこも辻斬りがよく出るからな。そこもけっこう死んでるぞ」 ボクとレティは顔を見合わせた あんな綺麗な場所で? 「なぜそんな事がわかるんですか?」 「霊媒師だから。霊感を持ってる子なら、通った時点で大体わかると思うがな」 「……」 『この街って不気味な所が多いよね』 レティが言っていた言葉だ 「レティって、霊感あったりするの?」 「あー…どうだろう…でもあの場所はすごく寒く感じた」 彼女は少しばかり、霊感がありそうだ 「でも…あんな綺麗な所で殺人なんて…」 中年男性は笑いながら首を振る 「綺麗…か。確かにな…でもよく調べてみるとそうでもないんだ。ちなみに、そこに咲いてた花は覚えてるか?」 「いえ…」 「そうか…あなたを呪う。あなたの死を望む。悪意、憎悪、怨念、復讐、嫉妬、絶望、悲嘆…殺意」 「な、何ですか?それ」 「花言葉だ。全てあの場所に咲いてた花のな。どうだ?綺麗なのは表面(おもてづら)だけだろ?よく調べねぇと、本物は見えてこねぇんだ…覚えときな、お嬢ちゃん」 何…花言葉って… 怖すぎるよ 「………あのやめて下さい…帰れなくなっちゃいます」 それを聞いてまた中年男性は笑う 「大丈夫だ。お前には世界最強の女がついてるだろ?」 まだその設定続いてたの? 世界最強は今の話を聞いてボクの背中に張り付きプルプルと震えていた 「そうでもありませんね…」 「だっははははは…」 全然笑えないんだが… 食事が終わり帰宅に移る 「じゃあな、お嬢ちゃん達。楽しかったぜ」 おちょこを上にくいっと上げて、ウィンクを一つ 「えー…おっちゃん付いてきてくんないの?」 「そりゃな。世界最強に失礼だろ?」 「そんなぁ…」 「悪いな、もうちょっと飲みてぇんだ。堪忍な!」 どうやら、二人での帰宅になりそうだ ー帰り道ー 行きとは違い、外は暗さが増していた 月が雲に隠れて、街を照らすものが無くなったからだ もう…勘弁してほしいよ 「ねぇ、レティ。ボク花畑通りたくないんだけど…回り道しない?」 「ダメダメ…それだとなんか…負けた感じがする」 はぁ… 「誰と闘ってんのさ?正気?」 「あんたはだぁーとれい!」 誰なの?それ… 彼女は全く聞き耳を持たず、結局例の花畑を通る事になった ー花畑ー 行きと同様 見事に咲き誇った花が綺麗に並んでいる 周りをよく見ると確かに標識が立っていた しかし…錆びがひどくて何が書かれているのかがわからない …… 本当に錆びだろうか…血飛沫の(あと)のようにも見える レティは道路を逸れて花畑の中に入っていった 「レティ!何やってんの!?」 「いやー、タンポポくらい生えてないかなーって」 あの花言葉を気にしてるようだ 彼女なりの意地だろうか 不吉な花以外を見つけるつもりらしい 「…確かに。タンポポくらい生えてるかも」 ボクも加勢して一緒に探した しかし 探せども、探せども 見つからない… クロユリ、ユリ、ロベリア、ハナズオウ、マリーゴールド、オトギリソウ どれも綺麗なのだが… 花言葉か…わからないものだ 「カレン…」 レティがボクの名前を呼んだ 「どうしたの?」 彼女の元へ近づいて行くと、足元に丁寧にビニールでラッピングされた花束が地面に置かれていた これって…弔いの… 「マジだ…ここ」 「マジ…?」 「うん。至るところに献花(けんか)が置かれてる…」 花畑の中に埋まっていて、気づかなかった花束の数々 それは実際に何人もの人がここで死んでいる事の証だった… 『よく調べねぇと、本物は見えてこねぇんだ』 「…カレン…帰ろう…」 「うん…帰ろうか」 ボク達は手を合わして拝み すぐにその場を後にした 長居してはダメな場所だと思ったからだ ずっとそこにいたら…一生この花畑から出られなくなるような そんな気がして 6099c5dc-8f86-4378-8248-9aab859afd7a 【固まる二人】
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