標識表示街

8/29
前へ
/29ページ
次へ
まだ眠っていたい朝の早い時間帯に電話がなった 「何よ…もう…」 寝起きで目の開かない状態のレティはのそのそと受話器を取る 「はい……………え?」 彼女は電話を切ってすぐさま動き始めた 電話を取ってからまだ数分の内に 歯磨き、洗顔、朝食、着替えを済ませ玄関を飛び出した その電話は ダンジョンの隠しステージ発生のお知らせだった 隠しステージ 不定期に発生するスペシャルエリアでレア素材が手に入りやすい場所になっているのだ 「やったやった」 これを機に 一気に取り戻す お金も装備も全て! 彼女は上機嫌で、集会所まで走って行った ー集会所ー レティが着いた頃には他の魔導師達が沢山集まっていた 中には新人も多く見受けられる ここで一気に下から上に成り上がろうという腹積もりなのだろう 考える事は皆同じだ 場所はガラゴ洞窟 うはぁ~、やったぁ! 珍しい鉱石が取れる場所だ! キタキタキタキタキター!!! ごめんねぇ~、カレン 私は先に行くぜぇ!なんちゃってねぇー テンション上がりまくりのレティは特に何も考えずに手持ちアイテムをテキトーに持ってワープパネルの上に乗った 「以上ですか?他にいませんかぁ?」 受付のラディが拡声器を片手に参加者を募っている 参加者は現在で30人くらいはいるだろうか もういいから早く転送してほしい ライバルが増えてしまう 「ちょっと、ラディ!巻で頼むよ巻で!」 「おう、レティちゃん。そうカッカすんなよ。シワが増えるぜ?」 なっ… 「何だとぉ!?レディに向かってなんて事言うのよ!このプロテインお化け!」 「それは、褒め言葉かい?レティちゃん。あれ?カレンちゃんがいないみたいだけど大丈夫?また初期装備になっちゃうんじゃない?」 「黙れ…」 「おぉ、こわ…では、以上で一回目を締め切らせていただきまーす。皆さんいってらっしゃーい!!」 楽しんできてねーと手を振る受付兄さん どこのテーマパークアトラクションだよ…たく… クエストに行く連中も楽しそうに手を振り返している …のんきだなぁ…私は彼らとは違う もう闘いは始まっているのだから のほほんとしている場合ではない ここにいる全員が敵 競争なんだ 他の者よりもどれだけ探して、見つけて、奪い取れるか そう。これは仲良しこよしのクエストじゃないのだ 全員が楽しそうに手を振る中、私は一人体操を始めていた そしてレティ達は白い光に包まれて、ダンジョンの入口へと転送された 転送が完了し、ガラコ洞窟の入口が見えた瞬間にレティは我先にと走り出す 「おっ先!」 洞窟の中へ飛び込んで入り、そのまま奥へ奥へと進む 下は岩石がゴロゴロして、足場が悪い状況だったが そんな事は気にもせずに彼女はスイスイ進んだ よしよし…一番のり 最深部につれて暗くなってきた 流石に光がないと進めない 「ライトはぁ~…」 ポーチの中を探るがライトは出てこない どうやら忘れてきたようだ… でも大丈夫 「こんな時のためにコレがあるんだよねー」 紫色の巾着袋からペンライトを取り出した 「これでよし…」 ここからは周りを探索しながらゆっくり進もう 良いものが拾えるかもしれない… 期待に胸を膨らませて、暗い洞窟内を歩き出す ーカレンの家ー カレンはまだベッドの中にいた 夢うつつのぼんやりした、気持ちの良い状態で掛け布団にぎゅっと抱きついている うっすらとした意識の中で鳥の(ささや)きが耳に入ってきた 「……」 朝かぁ… んー……もうちょっとだけ… 窓から日差しが入り込んで彼女の顔を照らす 「あぅ…ん…暑っ…」 カレンはモソモソ起き上がって時計を見る 5時30分 はぁ…動こうかな… 洗顔、歯磨き、朝食、その他もろもろ いつもの習慣化した朝の行動をこなしていく 洗面台に立つと、いつものように鏡に写った自分の爆発頭を見て「うわぁ…すご」と口ずさむ これもちゃっかりルーティーン化していた 爆発した髪をシャワーで全体を濡らし 最後はドライヤーで乾かして、セット完了! 「よし。いつも通り」 …朝食はどうするかなぁ… 冷蔵庫を開けると目の前に食パンが鎮座していた 「焼いてほしいって?しょうがないなぁ…よし、なら君にしよう」 トーストにパンをセットし パンが焼けるまでに ベーコンを焼いて、目玉焼きも作っておく 忘れずにコーヒーメイカーも起動 パンが焼けたら、焼いておいたベーコンと目玉焼きを乗せて更にレタスを挟んで、出来上がり! うん、ベーコンレタスエッグサンドってとこかな コーヒーと一緒に美味しくいただく 「美味しい…」 我ながらいいできだ まぁ、簡単だし、誰でも作れるものなんですけどね… 朝食を済ませて少しゆっくりした後、装備を整えて出発の支度をした レティ、起きてるかな 羽織りを着て、財布、携帯、身分証を確認する 「OK」 カレンは彼女との待ち合わせ場所に前進した レティの居住地は殿田(とのだ)で ボクは鶴ヶ岡(つるがおか) その大体中央に位置する所がいつもの集合地点 赤いポストが目印 その周りには標識以外何もない場所だ 7時にポスト前 時間には余裕があるので、晴れた道をゆっくり歩こう ー赤ポスト前ー レティはまだ来ていない 時間は6時50分 「少し早かったか…」 カレンはレティを待ったが7時を越えても彼女は現れない まだ寝てたりするかな… 携帯を確認するも圏外表示 なぜかは知らないがこの街はどこに行こうとも圏外だ 不便… 携帯は地元でないと使えない でも一応いつも持ち歩いてますが 周りを見ると ボクに念押しするかのように圏外標識が数本並んで建っていた 「言われなくてもわかってるよ…」 カレンは携帯をしまい歩き出す そのままレティの家に向かった だが彼女は家にいる様子もなかった あれれ… 「直で集会所に行ったのかな?」 集会所に行ってみるか ー集会所ー 中は人がごった返して騒いでいた 「どうなってんだよ?」 「ねぇ…教えなさいよ!」 「俺の妹も参加したのか!?」 「どこ!?どこ行ったの?」 受付に人が殺到している カレンは口をポカンと開けて見ていた 一体何が…? 横に視線を向けると、同じように離れて見ている子がいた 知り合いの女の子 「ウィルタ」 「!…カレン」 「何かあったの?これ」 「ああ」と頭を掻いてため息をつき、事のいきさつを教えてくれた 朝早い時間帯にダンジョンの開催があった事 そして現在、そのダンジョンの場所に行く事が危険だと判断され、立ち入りを禁止された事 ダンジョン先が危険? どうして… ダンジョンに行った人達はどうなるの…? 見捨てるって事…? 「そこには…私の友達が…」 彼女は肩を震わせ、ぎゅっと下唇を噛んだ ウィルタ… あれ… ちょっと待って…まさか レティ… 彼女も? まさか! カレンは受付に向かって、人が殺到する中を進んだ 受付のラディが見えた 「ラディ!」 「あっ、カレンちゃん」 「レティは!?レティは朝ここに来たの!?」 「どうだったかなぁ…人が多過ぎてね。関わりのない子は覚えてないからさ」 は、はぁ? 知り合いでしょ? 「じゃあ、名簿は?クエスト参加者名簿!」 「今は持ってない。上の管理者が持って行っちゃった」 くっ…… 「……場所は?」 「まさかカレンちゃん…行く気?」 「…ああ、行くよ」 「止めた方がいい。ホントに危険だから。というか立ち入り禁止区域だよ?」 「関係ない」 「はぁ…無駄だぜ、カレンちゃん。今はワープパネルも使用停止してる」 「ボクは一度行った所ならば魔法でそこに飛べる」 ラディはそれを聞いて驚愕していた 「危ないって。死ぬ危険性があるんだぜ?もしかしたらレティちゃんもいないかもしれない」 「それでも行く。場所は?」 一歩も曲がらないカレンに対してラディは下を向き口を閉じた 何をそんなに拒むの? 「早く教えて」 「今俺達受付の仕事は無駄な犠牲を出さない事だ。一人でも多くの魔導師を救う。それが俺の指命だ。カレンちゃん…悪いが君を行かせる訳には行かない」 犠牲を出したくない?ふざけた事を… いつも救おうともしないくせに 「黙れ。どこに行って、どうなろうが知った事じゃないんだろ?自己責任じゃないか!早く教えろ!!!」 カレンの気迫でその場が凍りく 周りの視線はカレンに向けられた 先程まで騒いでいたその場が嘘のように静まり帰る 「ガラコ洞窟…です…」 それを聞いて彼女は静かにその場を立ち去った ー集会所裏側ー 「よし…ガラコ洞窟か」 良かった…一度行った事がある 行ける! 「カレン!」 声の方向にはウィルタがいた 彼女はどことなく、おどおどしているように見えた 「ウィルタ。どうしたの?」 「わ、私も…行きたいんだけ…ど…いい?」 「あ、うん。もちろんいいよ。でも危険らしいから、そこは覚悟してね?」 それを聞いてにこりと笑った 「うん。大丈夫。ありがとう、カレン」 彼女も上位ランカーの一人 きっと大丈夫だ 「あ、あとさ、他に行きたい人もいるみたいで…その人達も一緒にいい?」 「いいよ?いいけど…何でこっちに来ないの?」 「えっと…その…カレンが怖いからって」 えっ、えー!! 怖い? そんな…ボクが? 「私に、聞いて来てくれって頼まれてさ…」 何てことだ… 「もう…怒ってない?」 「お、怒ってないよ!そんな恐る恐る聞かないでよ、ウィルタァ…」 ショックを受けたカレンを見て クスクスと笑うウィルタ ボクのキレキャラが確立した瞬間だった
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加