白い国

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次の週末、諦めきれず近所の交番に向かった。 あれから何度か家の中や会社の周りを探したけれど、手袋は見つからない。 「大体、春に贈る就職祝いに冬物の手袋って…」 一人暮らしに出てくる直前まで、父親に言い続けたことを今でも覚えている。 失くしたなんて、言えないよ…。 交番に着くと、先客があった。 親子連れらしく、幼稚園児くらいだろうかと思われる女の子が一生懸命話していた。 私に気付いた母親らしき女性が、急かすように話しをまとめる。 「先日見つけたらしいんですが、どうしても自分で持って行くって聴かなくて…」 「ありがとうございます」 と応える警官の手にあるそれは、見覚えのある手袋のようだった。 私は思わず、交番の大きさにそぐわない大きな声を出してしまっていた。 「それって…」 近付くとそれは間違いなく、数日前から探し続けている手袋だった。 「ありがとう! ありがとう!! 」 私の頬には、涙が流れ出ていた。 帰ったら、ここから行けそうなスキー場、調べてみようかな。
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