書けない特技

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「この『おやすみ枕』、みなさん、本当にすぐに眠れるの? と思うでしょう。実はね、今日はこの会社の社員さんに来ていただいています」  実演販売員の紹介で僕は頭をぺこりと下げた。  ざっと20人ほどのギャラリーがいる中、しかもショッピングモールに来て僕は何をやっているんだろう。  そう思いながらも椅子に腰かけ、長机に置かれた『おやすみ枕』に頬をくっつける。 「さあ、種もしかけもございません! この新入社員君が今から3秒後に寝ます」  実演販売員の声に、僕は少しだけおかしくなって笑いをこらえる。  種も仕掛けもないけれど、昨夜は寝不足だから準備は万端だ。 「3、2、」  実演販売員の声が遠ざかっていく。  僕の特技が、まさか寝具メーカーの実演販売で役立つとはなあ。  人生、何があるのかわからないものだ。
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