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寝ているうちに30分が経っていた
目が覚めると、真っ白だった。顔を上げると、穏やかな春の日差しに満たされた教室の中で、真剣に机へ向かう皆の背中が見えた。ふと壁に掛けられた時計が目に入る。時計の針が示す時間を見て、僕の頭の中も真っ白になった。残り時間は20分を切っていた。まずい。
一息ついて、改めてシャーペンを手に取る。落ち着け、今からでも解ける問題はあるはずだ。選択肢の問題は適当に目についた記号を選ぼう。どれか一つくらいは当たるだろう。というか当たってくれ。他の問題にも目を向ける。長文問題はパス。一問一答形式でサクサクと答えられるものから…サクサク解けるものが、ほぼない…。これはヤバい…とにかくヤバいヤバい…‼だから、お昼後のテストは嫌なんだ。なんで眠くなる時間にテストなんてやるんだ。
「あと10分!」
試験監督役の先生の声が聞こえた。いよいよピンチだ。
あれ、この問題見たことがある気が…ダメだ、思い出せない。こんなことなら、昨日、部屋の掃除なんてしないでちゃんと勉強しておくんだった。
解ける問題はないか、必死で問題文に目を滑らせる。何故か脳内では昨日聞いていた曲がリピートされている。
「あと5分。終わったら見直しをするように!」
うるさい、見直しの余裕なんてあるわけがないだろ。相変わらずほぼ白い解答用紙を見つめる。答案用紙に書いた選択肢の記号や単語を見つめている内に何だか段々、大丈夫な気もしてきた。他の生徒も案外こんなものなんじゃないか?いくつか問題も解けてるし、赤点はギリ回避できてる気もする。うん、イケてる。大丈夫…ダイジョウブ……。
「解答止め!ペンを置きなさい」
間延びしたチャイム音と共に先生が声を掛ける。皆が筆記用具を置いたのを確認して、先生が解答用紙の回収した。
終わった。僕は溜息をついて、窓の外を見た。テストは終わった。今更どうすることもできないから、もうさっきの試験の事は忘れて、次回頑張ろう。そうしよう。
「空が青いなぁ」
雲一つない空を見上げて、呟いた。
一カ月後、赤い雨が降った解答用紙を見つけた親が僕に雷を落としたのは言うまでもない。
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